「公共投資は無駄」という誤解
公共投資は無駄だと考えている人も多いようです。バブル崩壊後に巨額の公共投資が行われたのに、景気はよくならずに巨額の借金と無駄な道路ばかり大量に残った、というわけですね。
しかし、これは2つの意味で誤解です。たしかに無駄な道路はたくさんできましたが、それでも失業対策という意味では効果があったわけです。経済学者のケインズは「不況期には失業者を雇って穴を掘らせろ」といったようですが、穴を掘って埋めるよりは、田舎に高速道路を作ったほうがマシでしょう。
もうひとつの誤解は、景気対策としての効果はなかった、というものです。結果として景気がよくならなかったのは確かですが、公共投資をやらなければ大不況が来ていたのに公共投資のおかげで軽い不況ですんだ、と筆者は考えているわけです。
公共投資をやらなかったら本当に大不況が来ていたのか、疑っている人もいるでしょうが、あれだけのバブルが崩壊したのですから、筆者は疑っていないわけです。
理系であれば、実験室のなかでバブルを100回崩壊させてみて、公共投資をした場合としなかった場合の景気を比較する…といった実験をするのでしょうが、実際の経済ではそんな実験はできないので、議論の結論が出ないのは残念なことです。
なぜ「大不況時の公共投資」は効果が薄いのか?
バブル崩壊後の公共投資の効果が小さかったというのは、事実かもしれません。景気が本当に悪いときには、公共投資で雇われた元失業者が「どうせ再び失業するのだから、給料は使わずに貯金しよう」と考えるからです。しかし、それでも効果はゼロではありません。元失業者は金に困っているので少しは使うでしょうから。
山火事のときにコップで水をかけても効果は小さいでしょうが、「だから水をかけても仕方ない」と考えるのではなく、「水のかけ方が足りないのだ」と考えるべきです。それと同じで、バブル崩壊後の公共投資が足りなかったから景気が回復しなかったのです。
公共投資で景気がよくなっても、公共投資をやめれば景気は再び悪化するのだから、公共投資は一時凌ぎのカンフル剤に過ぎない、という人もいるようです。しかし筆者はそうではないと考えています。
景気は自分では方向を変えないので、公共投資によって下を向いている景気を上向かせることができれば、そのまま自分で上向きの景気回復を続けてくれるからです。
マッチで部屋を温めることはできないけれど、マッチでストーブに火をつければ、部屋が温まる、といったイメージですね。
労働力不足で公共事業ができなくなる可能性も…
もっとも、今後は少子高齢化で恒常的に労働力が不足する時代を迎えるかもしれません。そうなると、公共投資をしたくても建設労働者が集まらないから工事ができない、といったことになりかねません。実際、アベノミクスではそうしたことも起きていたようです。
もっとも、それは公共投資の効果がなくなるということではなく、公共投資の必要が無くなる、ということですから、プラス思考で明るく前向きに捉えましょう(笑)。
今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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