「高齢者施設」の実態、在宅医が語る
それでは、実態はどうなのでしょうか。正直、入所者さんに対する介護状況も、建物などの環境も、そして食事なども、千差万別といった状況です。施設ごとに、何らかの特徴を打ち出しながら、入所者を集め、従業員も集めるように努力しています。簡単にいくつかの施設のタイプを挙げてみます。
1つ目は比較的重症な入所者にも対応することをモットーに、訪問看護、訪問介護も自分のところで運営して、トータルとして収益を上げている施設。このような施設は、ALSなどの神経難病で人工呼吸をつけている方をも受け入れてくれます。また在宅腹膜透析患者さんも受け入れてくれることもあります。
2つ目は、入所者のほぼ全員が日中はデイサービスをうけて、入居料とデイサービス料で、なんとか黒字経営を維持しているタイプ。このタイプの施設が一番多いと思いますが、訪問診療などは、できるだけデイサービスの時間にかからないように行う必要があるので、かなり調整が必要です。
3つ目はグループホーム。認知症に特化した施設ですが、施設内で食事を作ることが義務付けられているので、美味しい食事を提供するところが多いようです。そして9人の入所者を1単位として運営されるので、きめ細かな対応が可能になっています。しかし入所者どうしの交流は困難な場合が多く、訪問看護の介入は、状態が悪化した場合などに限られます。
まだまだ色々な区別がある「施設」ですが、一般の方々が想像されるよりは、ずっと明るく、楽しく運営されていることが多いと思います。介護に当たる職員は、一人の人間としての利用者に優しく語りかけます。かつてよく見られたような、赤ちゃん言葉で利用者さんに語りかける人は皆無です。
また、さまざまな年中行事も行われます。クリスマスはもちろん、お正月行事として餅つきなども行うところもあります。もちろん喉につまらせてしまっては、大変なので、細かく切ったり、嚥下能力に合わせて提供したりと、色々工夫しているようです。そば打ち体験なども行なっているところもあるようです。デイサービスでの、ゲームや塗り絵、絵手紙作成など、見ていて微笑ましくなるものもあります。そして入居者どうしの交流が成り立っているところなどはとても穏やかな空気が流れています。
今後、日本ではますます少子高齢化が進んできますので、個人のお宅で療養するのは介護人の不足ということがあって、より困難になってくるでしょう。これからは、北欧で見られるように、ほとんどの高齢者が、自宅で独居しながら訪問サービスを使うか、施設に入居して、効率の良い介護を受けるかの選択をするようになってくるでしょう。
あるいは小規模多機能施設のように、自宅での療養と必要なときは施設への入所を組み合わせて使えるところが増えて行くのではないでしょうか。また高齢者のシェアハウスみたいなものも発達してくるような気がします。
一人の時間は大切ですが、すべての時間「ひとり」になってしまうのは、防ぎたいものです。施設入所を、前向きに捉えて、色々と工夫していく時代がすでに到来しているのです。
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