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活性酸素を大量に発生する「火元」はどこにあるのか?
これまでは説明を分かりやすくするために、“エネルギーを作るミトコンドリアで活性酸素ができる”という説明をしてきました。身体に余計な炎症が起こっていない、正常な状態ではその通りです。通常であれば、ミトコンドリアで発生する活性酸素と、抗酸化ビタミンや抗酸化物質はバランスが取れているので、身体に炎症が広がることはありません。しかし、身体のバランスが崩れると、慢性的な炎症が起こる別の機序が働きます。
■慢性的な炎症を起こし、活性酸素を大量発生させる原因は「私たちの細胞自身」にある
一般的に、炎症を誘発する要因としては2種類あります。
一つ目は外から入ってきた病原体に存在する分子で、PAMP(pathogen-associated molecular pattern:病原体関連分子パターン)といわれます。文字通り、外から侵入してきた細菌やウイルスの表面に出ているタンパク質を指します。
二つ目は自身の細胞が壊れたときに放出される分子で、DAMP(damage-associated molecular pattern:傷害関連分子パターン)といわれます。DAMPでは自身の細胞の一部が、寿命が来たり傷害を受けて分解されたりしたときのかけらが残って炎症を起こす原因になることが多いのです。
この中で二つ目のDAMPが、身体に慢性的な炎症を起こし、活性酸素を大量に発生させる原因になることが最近の研究で分かってきました。外から入ってきた病原菌ではなく、私たちの体内に存在する一部が、炎症を起こすということは、これまでの炎症の常識を覆す発見であり、衝撃をもって受け取られたのです。
DAMPにはいくつかの種類があり、タンパク質性のDAMPとして代表的なものとしてはヒートショックプロテインがあります。非タンパク質性のDAMPとして代表的なものは、ミトコンドリアで作られ、細胞のエネルギーとして使われるATP(アデノシン3リン酸)があります。ATPは傷ついた細胞や死滅した細胞から放出されると、DAMPとして慢性炎症の原因となります。
ミトコンドリア内では常に活性酸素が発生しているため、老朽化してくると、「漏電現象」とでもいうべきことが起こり、内部に発生した活性酸素がミトコンドリア自体や細胞を障害するようになります。通常は老朽化したミトコンドリアや細胞内のさまざまな小器官は「オートファジー」という自浄作用が働いて、きれいに掃除されます。さらには、寿命の尽きた細胞は「アポトーシス」という、周りに破片を巻き散らかすこともなく、静かに死滅する方法を選びます。しかし、このような自浄作用の機能が低下したり、追い付かないくらいに大量の細胞が破壊されたりすると、死滅した細胞の破片が体内に漏れ出て、身体に慢性的な炎症を起こすのです。
破壊した細胞から破片がDAMPとして周りに漏れると、身体の免疫システムは即座にそれを敏感にキャッチします。そうすると「炎症の連鎖反応」が起こるのです。