(※写真はイメージです/PIXTA)

「活性酸素は身体に悪い」という話は広く知られていますが、活性酸素がどのようにできるのかまで知っている人は少ないのではないでしょうか。今回は、がんや心血管疾患、脳血管性疾患といった慢性疾患の大きな要因となりうる活性酸素がどのような仕組みで発生するのか、身体にどのような作用を起こすのかを見ていきましょう。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

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活性酸素はどのようにしてできるのか?

私たちの身体は60兆個の細胞からできていますが、これらの細胞が正常に機能するためにはエネルギー源が必要です。エネルギー源は食べ物から得ることができますが、食べ物は消化管で分解・消化された後に肝臓を経由して身体の全身の細胞に運ばれ、エネルギーに変換されます。三大栄養素の炭水化物、タンパク質、脂肪はどれもエネルギー源になりますが、その中でも炭水化物が一番メインのエネルギー源になります。

 

消化管で吸収され、血液中に運ばれるブドウ糖のことを「血糖」と言います。血液中のブドウ糖は膵臓(すいぞう)から分泌されたインスリンというホルモンの働きで細胞内に取り込まれます。

 

インスリンは血糖を下げるホルモンと認識されている人も多いと思いますが、本来は血液中のブドウ糖を細胞の中に運ぶためのホルモンなのです。血糖が下がるのはその結果に過ぎません。

 

インスリンの作用によって、ブドウ糖が細胞の中に取り込まれると、まずは「解糖系」という化学反応によって分解されます。この時にも一部エネルギーが作られますが、後で述べるミトコンドリアでのエネルギー産生効率よりもはるかに劣っています。解糖系は酸素を必要としない無酸素反応です。解糖系でブドウ糖はピルビン酸という物質に変化します。このピルビン酸が細胞の中にあるミトコンドリアの中に入り込みます。

 

ミトコンドリアの中にピルビン酸が入ると、クエン酸回路(TCAサイクルともいう)で分解されます。ここで起こっている反応は、非常に単純化して言うと、ピルビン酸を分解して水素イオンを作り出す反応です。1つのピルビン酸がクエン酸回路の中に入ることで、最終的に4個の水素イオンができます。

 

次に、この水素イオンは電子伝達系という別のエネルギー産生回路に送り込まれます。電子伝達系では、この4つの水素に、酸素分子から1個ずつ電子が受け渡され、最終的には2つの水分子ができます。

 

実際に起こっている化学反応はとても複雑なのですが、電子伝達系で起こっていることの本質的な部分だけを取り出して表すと

 4H+ + O2 → 2H2O +(エネルギー)

ということになります(図表1)。

 

[図表1]活性酸素はどのようにしてできるのか①

 

この反応を見ても分かるように、ミトコンドリアの中で起こっている反応には酸素を必要とします。解糖系が無酸素反応であるのに対して、ミトコンドリア系(TCA回路→電子伝達系)は有酸素反応です。この反応の結果、エネルギーのコインであるATPという物質が36個作られ、細胞が正常に機能するためのエネルギー源になるのです。

 

■エネルギーを作る上で「活性酸素の発生」は避けられない

大事なことは、これらは一挙ではなく計4段階の化学反応を一段階ずつ進むということです(図表2)。そして反応が1段階進むごとに1種類の活性酸素が発生します。第1段階では一重項酸素(1O2)、第2段階ではスーパーオキサイド(O2)、第3段階では過酸化水素(H2O2)、第4段階ではヒドロキシラジカル(・OH)という4種類の異なる活性酸素ができるのです。この段階を飛ばして、一気に水分子を作ることができないわけです。

 

[図表2]活性酸素はどのようにしてできるのか②

 

つまり、ミトコンドリアの中で酸素を利用してピルビン酸を燃やし、ATPというエネルギーコインを作る際に、活性酸素ができることはどうしても避けられないのです。私たちが呼吸によって取り入れている酸素のうち、約2%が活性酸素になるといわれています。

 

酸素を必要としない解糖系では2個のATPができるのに対して、ミトコンドリア系では36個のATPができます。酸素を利用することで18倍も効率的にエネルギーコインを作れます。その代償として活性酸素が発生するのを避けることができないのです。

 

生命の進化にあたって、私たちのエネルギー代謝回路は解糖系からミトコンドリア系へと進化してきました。進化の過程で、エネルギーの産生効率を優先した結果、活性酸素の産生という犠牲を払うことになったということができるでしょう。

次ページ私たちは活性酸素をどのように「処理」するのか?
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