(※写真はイメージです/PIXTA)

米国地域保健協会(NRHA)は、「地方の医療従事者と患者が直面する障害は、都市部とは大きく異なる。経済的な要因、文化的・社会的な違い、教育不足、政治家の認識不足、遠隔地に住むという孤独、これらすべてが医療格差を生み、地方のアメリカ人が普通に健康な生活を送るための努力を妨げる」と指摘します。中には、医療が絶望的な状況に陥っている地域も…。ボストン在住の大西睦子医師が、米国の都市圏と農村地域とで拡大している「医療格差」について解説します。

農村地域における「未来の医師」を惹きつける取り組み

このような中、農村地域で診療する未来の医師を惹きつけるための医学部や教育病院の取り組みが進んでいます。

 

■「農村部での研修コース」を設置する医学部が増加

前述のオレゴン州ウィーラー郡のように、医療が絶望的な状況の地域が増えています。AAMCによると、連邦政府が指定した7,200以上の医療専門家不足地域のうち、5つのうち3つが農村地域にあります。しかも、この状況はさらに悪化する可能性が高い。地方の医師の多くが定年退職を迎えるため、2030年までに開業する医師が4分の1近く減少する可能性があるのです(※9)

 

若い医師は農村地域での開業に際して、配偶者が働く機会が少ない、子供の教育支援が乏しい、収入の低さ(学費のローンを抱えている医師にとっては深刻な問題)を心配するかもしれません。さらに、多くの医学生が家庭医学や農村地域診療より専門性を重視する文化があります。

 

このような状況に対応するため、AAMCによると、米国では農村部での研修コースを設置する医学部が増えています(最新の集計では40校以上)。これらのプログラムは、広範囲な働きかけと多大な支援により、地方での診療に従事する可能性のある学生を集めます。

 

都心から離れた小さなコミュニティで育った医学生は、コミュニティに戻って開業する可能性が非常に高い。そのため、多くの医学部は、農村地域出身の候補者を特定し、医学の道に進むよう奨励しています。

 

※9 https://www.aamc.org/news-insights/attracting-next-generation-physicians-rural-medicine

 

■農村地域を支える「医師の卵」を発掘する活動

オレゴン健康科学大学(OHSU)医学部の学部医学教育部長デビー・メルトン氏はAAMCに、「私たちの取り組みの一環として、医療専門職に興味をもつ学生とつながるために、州内の地方にあるコミュニティカレッジや4年制大学に出向きます」「医学部への出願手続きや学資援助に関する情報を提供します。おそらく同じくらい重要なのは、医学部に進むことは可能で、現実的な目標であることを理解してもらうことです」と話します。

 

OHSUは州内の大学生を招待し、医療従事者のキャリアパスに関するプレゼンテーションや医療キャンパスのツアーを含むオープンハウスを開催。このプログラムは非常に好評で、今では年に3回開催されています。さらに、OSHUの代表者は、地方にある高校のキャリアデーに参加し、医学を考えたことがないような学生を惹きつけます。

 

他にもたとえば、カンザス大学医学部の「農村保健プログラム」は、州の地方から有望な大学生を見つけ出し、2年生の2学期に(医学部に)応募するように促しています。条件を満たした候補者は、大学を無事卒業することを条件に、(医学部への)入学が保証されます。

 

さらに、OHSUとカリフォルニア大学デービス校医学部は共同で「COMPADRE」を設立し、地方や恵まれない地域に医師を多く配置するという意欲的な取り組みを行っています。「私たちは、農村部や十分なサービスを受けていない地域社会に目を向け、優秀な候補者を探す手助けをします。そして、医学部を卒業するまで彼らを支援し、最終的には、私たちが提携している31の研修プログラムのいずれかに参加させ、農村部や十分なサービスを受けていない地域で仕事を続けられるようにします」と、OHSUの農村医学教育部門副学部長ポール・ゴーマン医師は説明します。

 

■「未来の医師」を惹きつけるため取り組みはすでに「成功の兆し」

これらのプログラムの成功の兆候があります。

 

たとえば、AAMCによると、ミネソタ大学医学部のRPAP(Rural Physician Associate Program)の卒業生の3人に2人は同州で開業し、そのうちの40%が地方で開業しています。また、2005年に始まったコロラド大学医学部のプログラムを卒業した127人の医師のうち、35%が地方や辺境とされる地域で開業しています。USDサンフォード医科大学を2023年に卒業する70名の学生のうち、54名は州内の高校を卒業しており、その中には小規模な農村地域出身の学生も多く含まれています。その多くは、州内の7つの農村地域のうちの1つをローテーションできるプログラムのために、USDを志願しました。

 

さらに重要なことは、地方での研修プログラムに参加することは、多くの学生にとって人生を変えるような体験になるということ。

 

「小さなコミュニティでは、地域社会や家族の中で患者を知ることができます」「家族全員、場合によっては複数世代の家族の面倒を見ることになります。出産、死、トラウマ、そのすべてを通じて患者を診ることになるのです。ケアの継続性と満足感は、他の診療所ではなかなか得られないものです」と、サウスダコタ大学(USD)サンフォード医科大学地方医学部長スーザン・アンダーソン博士は言います。

 

サウスダコタ州の最近の研究で、農村部の家庭医が燃え尽きる割合が、都市部の開業医に比べて著しく低いことが明らかになりました。これらの農村地域でのプログラムと医師不足問題が、今後どうなるか注目ですね。

 

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

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