(※画像はイメージです/PIXTA)

先輩が怖くて仕事にいけない20代の保育士がいる。苦手な上司や同僚がいるとたちまちへこたるひ弱な若者が少なくありません。なぜ若者は逞しさを失ってしまったのでしょうか。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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先輩が怖くて仕事に行けぬ20代保育士

20代の保育士が父親とやってくる。先輩が怖くて仕事に行けないという。父親は職場の連中に問題ありと言いたげである。彼女は通常6人の幼児を世話しているが、正規職員なので保育士全員のリーダーでもある。

 

40歳も年上で主任経験のある再雇用者や、パートのママさん保育士など、子育てを経験し、保育の仕事に自信のあるベテラン保育士たちを時には指揮しなくてはならないのである。年の離れた弟はいるものの、一人娘で大事に育てられた彼女には、母親よりも年上の先輩たちの言葉がきつく感じられるようなのだ。同期3人のうち1人は最近辞めてしまい、もう1人は別の部門である。

 

いまや若者は、どの職場にも少ない。先輩たちに大事にされて伸びていく若者も無論いるが、苦手な上司や同僚に出くわすと、たちまちへこたれるひ弱な若者が少なくない。先輩の保育士たちは、彼女のたどたどしい仕事ぶりに、つい一言注意したくなるのだろう。特別意地悪されているわけではなさそうだが、祖母にも溺愛された彼女はそれを耐え難い厳しさと受け取ってしまうようだ。

 

今日の他罰的風潮では、これを職場いじめやパワハラといった文脈に当てはめて説明しがちである。別の似たようなケースでは労災の申請もなされている。若い保育士の彼女は見るからに人が好さそうで、しかもなかなかの美形である。一所懸命に仕事をしていることも確かなようだ。

 

それ故、休養を要すとの診断書を書く時も父親と同様、つい肩入れしたくなった。

 

しかし、彼女が仕事に行けなくなったのは、どうやら食物アレルギーのある子供に普通のミルクを飲ませそうになり、先輩から酷くなじられた一件が影響しているようだった。それは、逞しく生きてきたであろう熟年女性にしてみれば当然の注意だった可能性が拭えない。

 

結局、いじめが原因では、という父親の言い分は採用せず「原因は特定されない」と説明した。安易にいじめの可能性ありと意見書など出されれば先輩たちも心穏やかではあるまい。場合によっては配置転換になるだろう。

 

昨今の日本の娘たちは美形になっている。日本の豊かさがもたらしたものであろうが、その豊かさは同時に、娘たちから困難に立ち向かっていく逞しさや強かさを培う機会を奪ってしまったのではないか。そのことが、相互に大して悪意がないにもかかわらず面倒な対立関係に至りやすくさせている一つの原因ではないだろうか。

 

その昔、貧しい日本の子供であった私は、好きな子の誕生日にはプレゼントをするものだと西洋かぶれの教師から教わった。クラスの可愛い女子に渡そうと、四つ葉のクローバーを校庭で探し、見つけた瞬間、力の強い生徒に横取りされた。返せと摑みかかったが、突き飛ばされ、鼻血まで出すことになった。四つ葉で何をするのか聞かれたくなかった私は、担任に黙って帰宅した。

 

鼻血の跡を見据える母に、上級生に殴られたと言ったら「この世は甘くないことを教えてくれたんだから、その子に感謝しな」と、理由を聞こうともしなかった。突き放すような言い方の裏に、お前はこれくらいのことでへこたれるようなひ弱な子ではないはず、との思いがあったのだろう。私は学校を休もうとはしなかった。もし母親がこの件で立腹し、学校に怒鳴り込んでいたなら、私は恥ずかしくて登校できなかったであろう。

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

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