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新人時代は「もう来なくていい」とまで言われたが…
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【米田さん(仮名)のプロフィール】
年齢:28歳(女性、薬学部卒)
所属:外資系メーカー(営業)
担当:大学病院
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米田さん(仮名)は薬学部を卒業後、外資系の大手メーカーにMRとして入社。薬剤師の資格もあり、もともと医薬品の知識は豊富。半年間の社内研修やMR認定試験も大した問題はありませんでした。
しかし、MRの仕事の難しさに直面したのは、現場に出てからのことでした。
「最初に配属されたのは都内の支店。プライマリMRとして、民間病院3軒と周辺のクリニック40軒ほどを担当しました。最初のうちはつい、自社製品の細かい話を一方的にしてしまい、ドクターと話がかみ合わず、『もう来なくていい』と言われたりして大苦戦していました」
個人としてノルマがあるわけではありませんが、支店の売上目標はあります。
支店長や先輩が一生懸命フォローしてくれるのですが、むしろ自分の不甲斐なさを痛感して悔し涙を流すこともあったと米田さんは振り返ります。
MRは医薬品の情報を伝えることが使命ですが、それはあくまで患者の治療に役立つため。
実際には患者と日々接し、治療に当たっているドクターをサポートすることが大切なのだと、米田さんは改めて気づいたそうです。
「まずはドクターの話に100%耳を傾け、治療で何に困っていらっしゃるんだろう、どんなサポートを求めていらっしゃるんだろうと一生懸命考えるようにしていると、次第にうまくコミュニケーションが取れるようになりました」
また、クリニックの医師は経営者でもあります。周辺エリアの市場分析などクリニック経営に関連する情報提供にも力を入れることで、信頼関係を深めることができるようになったそうです。
今では「がん領域専門のMR」として活躍
米田さんはさらに入社5年目、社内公募に手を挙げ、オンコロジー(腫瘍学)専門のMRの道へ進むことになりました。現在は、薬剤師としての専門知識を活かし、がん領域治療薬のスペシャリストとして大学病院で活動しています。
「この領域は多くの患者から新薬を期待されています。MRとして働き始めてから祖父を肺がんで亡くした経験もあり、オンコロジー領域で新薬を届ける仕事をしたいと思っていたんです」
とはいえ、実際に異動して気づいたのは、それまでのやり方では不十分だということ。製品の効果・効能だけでなく、副作用などの安全性情報が極めて重要であり、正確かつ迅速な対応が求められます。疾患や医薬品の専門知識をより深く理解するため、専門的な情報収集や勉強の時間がさらに増えました。
そのことでドクターと高いレベルのコミュニケーションが取れるようになり、米田さんは自分が成長している手ごたえを感じるといいます。
結婚後も仕事を続けたい…人生の選択肢を広げるには?
仕事においては順風満帆といっていい米田さんですが、プライベートでは学生時代から付き合っている彼との結婚を意識し始めています。
「ここ1年で同期の女性MRが何人か結婚して、焦り始めました。結婚しても仕事は続けたいので、そうなると今のペースで仕事を続けていけるのかということもちょっと不安に。彼は私が仕事を続けることには理解があり、家事や育児も手伝ってくれると言っていますが、いざそうなったときどうなるんだろう。先輩の女性MRのなかには、子どもが生まれてご主人が転勤になり、ご両親の手を借りてなんとかやり繰りしている人もいます。私たちは近くに両親がいないので、そうなったらどうしようかとか、いろいろ考えるんですよね」
米田さんとしては、将来、状況によっては休業や薬剤師の資格を活かした転職の可能性も考えるようになっています。
また、人生の選択肢を広げるには投資などお金の知識が必要だということに気づいたといいます。
そこでまずは、つみたてNISAを利用しての運用を開始。それとともに、興味をもったのが不動産投資です。
「最初はいろいろ手間が掛かるのではないのか、何千万円もローンを組んで大丈夫なのか、入居者はずっと付くのか、もっている間に価値が下がるのではないかなど、いろいろ疑問がありました。でも、不動産会社のセミナーに参加してみてそうした疑問は少しずつ解消されていきました」
不動産投資はそもそも中長期的な投資であり、また手間暇はほとんど掛からないので忙しいMRにぴったり。立地さえ間違わなければ、入居者の確保や資産価値の低下はさほど心配いりません。
さらには、生命保険の代わりにもなるなど、いろいろなことが分かり、目からうろこだったといいます。そして、3000万円の新築ワンルームを都内で購入することを決め、今では「未来へのパスポートを手に入れた感じ」と米田さんは明るく話します。
MRサバイバル時代は「自分でキャリアをつかむ時代」
大きな遣り甲斐があるMRという仕事。しかし、今回のコロナ禍を通じて自身のキャリアについて考えるMRの方が増えているのも事実です。
MRのキャリアパスとしてはまず、所属する製薬企業で実績を積み重ね、課長や営業所長、さらにエリアマネージャー、支店長を目指していく選択肢があります。管理職になれば売上目標の達成や部下の育成など業務範囲と責任は増しますが、年収もそれにつれて上がります。
また、管理職を目指すのではなく、がん、中枢神経系、自己免疫疾患、オーファンドラッグなど特定の領域におけるスペシャリティMRとして、専門性を磨くという選択肢もあります。大学病院や基幹病院を担当し、その分野のKOLといわれる医師との対応経験などは、転職等を考えたうえでも大きな強みとなります。
は当然、年収のアップや将来のキャリアへの不安もありますが、MRならではの理由として、頻繁な転勤への不安や将来に備えてより専門性を磨きたいといったケースも増えているようです。より専門性を磨くというのは、業界全体としてMRの数は減っていますが、製薬企業の間では、経験豊富で専門性の高いMRに対する中途採用のニーズはまだまだ高いからです。
転職において、注目されつつあるのがCSOです。CSOは製薬企業にとってはMR業務のアウトソーシング先であり、CSOに所属するMRがコントラクトMRです。
コントラクトMRは製薬企業のMRより収入の水準は低いとされますが、一方では勤務地や勤務時間を限定することも可能で、結婚や出産、子育てなどでワークライフバランスを重視する女性MRにとっては大きなメリットです。また、腫瘍学(オンコロジー)やオーファンドラッグ(希少疾患)などのスペシャリティ分野について、それまで未経験であっても挑戦することができます。
「MRサバイバル時代」において、MRのキャリアは多様化しつつあります。会社任せ、上司任せにするのではなく、自分自身で主体的につかみ取っていくべきです。
大山 一也
トライブホールディングス 代表取締役
高橋 侑也
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