ゼロコロナ政策
第三に挙げる注目点は“ゼロコロナ”政策の行方である。
世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的大流行)を宣言した20年3月11日から約2年を経たが、世界では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘いが続いている。
この間に人類はワクチンを開発し、その接種を進めるとともに、治療薬の開発を進めて犠牲者を減らそうと努力してきたが、COVID-19も変異を繰り返しながら生存を続けており、COVID-19を完全に終息させる道筋は見えていない。
そして、世界ではCOVID-19に対する政策が二極化してきた。西欧諸国がCOVID-19を終息させることは不可能と判断して、COVID-19の生存を許容し、ワクチンや治療薬でコントロールしながらも社会経済活動を維持する“ウィズコロナ”政策に転換し始めた。
一方、中国ではCOVID-19の生存を許さず、「四早(早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療)」を旗印とした厳格な行動制限でその終息を目指す“ゼロコロナ”政策を堅持している。
そして、人権のなかでも生存権をとりわけ重視する中国は、COVID-19で多くの犠牲者をだした西欧諸国を、自由権を重視し過ぎて生存権を軽んじていると主張しつつ、“ゼロコロナ”政策を頑固なまでに堅持してきた。
一方、中国でも“ウィズコロナ”政策に転換する前提条件は整いつつある。ワクチンの完全接種率が8割を超えた上、飲み薬の供給にもメドが立った※。
※ 薬品供給を支援する国際組織「医薬品特許プール(MPP)」は1月20日、製薬27社が米メルクの飲み薬「ラゲブリオ(一般名モルヌピラビル)」の後発薬を途上国向けに供給することで合意したと発表した。27社には中国5社が含まれる。
景気悪化を食い止める上では、“ウィズコロナ”政策に転換して消費を促進するのが有効で、そうすれば「不動産を短期的景気刺激手段に使わない」で景気悪化を食い止める道が拓ける。また、シンガポールが“ウィズコロナ”政策に転換するなど世界の流れに変化が見られ、北京冬季パラリンピックが終了すればさらに制約が減る。
現時点でCOVID-19をインフルエンザ並みに取り扱う(エンデミック)と主張するのは世界でも西欧諸国の一部だけで、ワクチン接種が進まず“ウィズコロナ”の前提条件が整わない途上国を考慮するWHOは「エンデミックと呼べる段階には入っていない」としており、世界の主流ではない。
しかし、途上国で前提条件が整い、WHOがパンデミックからエンデミックへと認識を変更すれば、中国にとっては“ゼロコロナ”から“ウィズコロナ”に政策転換する大義名分ができる。
そして、中国が“ウィズコロナ”政策に転換すれば、蓄積したペントアップ需要が一気に顕在化して“リベンジ消費"が本格化する可能性が高い。“ゼロコロナ"政策を続けてきた中国では、モノの動き(物流)はコロナショック前(19年)のレベルを回復したものの、ヒトの動き(人流)は半分のレベルで低迷したままだからだ[図表13]。
米ユーラシア・グループが22年の世界10大リスクの筆頭に挙げるなど、中国の”ゼロコロナ“政策は世界を脅かすリスクなだけに、実現すればポジティブ・サプライズとなるだろう。
三尾 幸吉郎
ニッセイ基礎研究所
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