認知症や病気、ケガなど、加齢とともに高まっていくさまざまな「老後リスク」……元気なうちからリスクに備えていなければ、本人はもちろん家族にも「過酷な現実」が待ち構えていると、のぞみ総合事務所の代表司法書士、岡信太郎氏はいいます。今回、脳梗塞の夫と欠かさずお見舞いにくる献身的な妻が、リスクに備えていなかったせいで迎えざるを得ない「最悪の」結末をみていきましょう。

病院側は、「消えた妻」の甥に協力を要請

すると、入院時に聞き取りをして書いた簡単な親族図がありました。吉村さん夫婦には子どもがいないようですが、奥さんの姉の息子、山口さん(48歳、男性)の名前と電話番号がそこには記入されていました。

 

入院時に奥さんが同じ市内にいる自分の甥を連絡先として病院側に伝えていたのです。ただ、山崎さんは、なぜ吉村さん本人の親戚関係が載っていないのか、気になりました。

 

奥さんとのコンタクトは諦め、山崎さんは資料に載っていた山口さんに連絡を入れました。すぐには出なかったのですが、夕方折り返しの連絡が病院にありました。

 

関係者と連絡が取れ、〝これでようやく解決できる〞〝奥さんの状況も分かる〞と山崎さんは安堵しました。山口さんにこれまでの経緯を説明しました。ところが、電話越しの山口さんは困惑するばかりです。

 

「自分の母親の介護が必要となってからは、吉村さんとはもう5年以上も会っていません」と、急に連絡が入り困っている様子でした。とはいえ、山口さんしかツテがありません。山崎さんは、もう一度現状を説明し、協力してもらえるようお願いしました。

 

山口さんは、しばらく黙っていましたが、「分かりました。妻とも相談し、吉村さんの様子を見てきます」と最終的には言ってくれました。山口さんの方でも、電話をしてみましたが、結果は病院からの電話と同じでした。そこで、山口さんは仕事が休みの日に妻と吉村さんの自宅まで行くことを決めました。

 

季節は冬。防寒対策をして吉村さん夫婦の自宅に行ってみました。吉村さんの家は市営住宅の2階の部屋です。夫婦共働きで、おカネには困っていないはずでしたが、いつも質素な生活をしていたことを思い出しました。

 

吉村さん本人は寡黙な人で、奥さんとばかり話していました。親戚関係も奥さん側が中心で、吉村さんの親戚関係はまったく分かりません。

 

外から部屋を見ると、昼間にもかかわらずカーテンが閉められています。気になったのは、郵便受け。郵便物であふれて入り切らなくなっています。

 

玄関の前に立ちチャイムを何度か押してみました。しかし、反応はありません。近所の人がたまたまいたので、何か知らないか尋ねてみました。

 

すると、「最近、外出しているのを見ていないよ」と近所の方も奥さんとしばらく会っていない様子です。

 

〝コドクシ〞その言葉が山口さんの脳裏をかすめます。

 

自分たちだけでは対応できないと思い、110番通報しました。警察が来て自宅に入るとすぐに、横たわっている奥さんが発見されました。司法解剖の結果、奥さんは死後数カ月経過しており、急死だったと後日説明がありました。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。
※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

5年後には「65歳以上の5人に一人が認知症を発症する」といわれている昨今の超高齢社会。認知症は介護などの生活面だけではなく、資産運用や契約など財産面にも大きな影響を与えます。 多くの認知症患者の成年後後見人として…

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