埋蔵文化財が出たら工事の中止は不可避
前回に引き続き、特に注意すべき「不動産の抱えている問題(リスク)」について見ていきます。
(2)埋蔵文化財
ときおり、テレビ等で「○○の工事現場で、紀元前5世紀頃の弥生時代の遺跡が見つかりました」などというニュースが流れることがあります。
このように地面の下から発見された数百年、数千年前の遺跡や石器・土器等の文化財は「埋蔵文化財」とよばれ、文化財保護法などの規定に基づいて特別な保護の対象となります。また、埋蔵文化財の存在が知られている土地は「埋蔵文化財包蔵地」に指定され、特別な規制が課されることになります。文化庁によれば、埋蔵文化財包蔵地は全国に約46万カ所あります。
考古学や歴史が好きな人からすれば、埋蔵文化財に関するニュースは、「工事をしていて遺跡が見つかるなんてすごい!」と心がわくわくさせられる素晴らしい話に思えるかもしれません。
しかし、工事を行っている業者にとっては、素晴らしいどころか“最悪の状況”に思えるでしょう。埋蔵文化財が見つかった場所では、その保護・保存に必要な措置を講じなければならず、そのために工事を中断せざるをえなくなるからです。宅地等の開発を手がけている不動産会社の中には、ぎりぎりの予算とスケジュールで工程を組んでいるところが少なくありません。埋蔵文化財のために工事がストップするのは、そのような業者にとっては死活問題となりかねないのです。
また、埋蔵文化財包蔵地で工事を行う場合には、試掘が義務づけられています。つまり、手間ひまかけて土を掘り、遺跡が存在するかどうかを確認しなければならないのです。しかも、その費用は業者が負担しなければなりません。
このように、地中に埋蔵文化財が潜んでいる可能性のある土地は、業者にとって無駄な手間やコストがかかるリスクがあるので、よほど他の条件がよくなければ高い値段で買われることはまずないでしょう。
【図表 不動産開発時の埋蔵文化財取扱い手続きの流れ】
地下からの湧水が原因で売り主に損害賠償も…
(3)地下水
地面の下に潜む目に見えにくいリスクとしては、地下水にも十分な注意を払う必要があります。
まず、地下水の水位が高いと、建物の基礎工事の際に水が染み出てくるなどして、作業に大きな支障がもたらされることがあります。また、湿気が多い環境となるため、「ここに住んだら体によくないのではないか」と健康面への悪影響を不安視されるおそれもあります。
さらに、地下水位の高い場所では、地震の際に液状化が起こる危険もあります。液状化とは、水分を多く含んだ砂の層が液体のように流動化する現象であり、住宅の傾きの被害などが引き起こされます。
このような問題点があることから、地下水のリスクがある土地、たとえば河川や池など水系近くの低位地や、宅地に造成される前は田や沼だったような土地は、買い手の側から一般的に強い警戒心をもたれることになります。
なお、最近、地下からの湧水を“土地の瑕疵”と判断し、売り主に対して損害賠償を命じた裁判例が現れました。地下水のリスクを巡り裁判になった場合に、裁判所がどのような判断を示すのかを知るうえで参考になるでしょう。下記に概要をまとめておきましたので、ぜひご一読ください。
【地下からの湧水が土地の隠れたる瑕疵と認められた事例】
名古屋地裁平成25年4月26日判決
不動産業者から土地を購入した買主は、引渡を受けた後に建物を建築しようとしたところ、地下0.5メートル部分で地下水が湧出していたため、その対策工事を行うことが必要になった。そこで、買主は、売主に対して、瑕疵担保責任として、工事費用などの損害賠償請求をした。裁判所は、以下のような判断を示し、買主の請求を一部認めた。
「本件土地の地下約0.5mの位置に地下水脈があり、本件土地において地下水が湧出していることが認められるところ、本件土地では、平成21年3月には、本件土地の表土を50ないし60cm鋤(す)いただけで地下水が湧出して本件土地の約3分の1に水が貯留する通常とはいえない状態が生じている。また、このように地下水が浅い位置にある場合、建物の基礎として直接基礎を採用できず、地盤表層改良をしても効果が期待できない上、一般的な地盤改良方法である柱状改良工法を用いても、流し込んだセメントが湧水層に流出してしまうため地盤改良の効果がないから、鋼管杭による杭地業工事でもって地盤改良をする必要がある。
更に、鋼管杭は、先端部分の支持力に加えて杭と地盤の摩擦力で建物の重さを支えるので、その途中の地盤が軟弱であれば水平方向の力は支えられないし、本件土地のように地下水位が浅い位置にある場合、一般的な宅地以上に地表の雨水を速やかに排水する必要があるし、地盤沈下を避ける必要もあるから、本件土地には透水管を設置する必要がある。
名古屋市における平均地下水位は、浅いところでもマイナス3m程度であるし、約100件の戸建て住宅の建築設計に関わったE建築士の経験では、1.5mというものが最も浅い地下水位であり、地下水位が0.5mないし1m程度であったことはなく、E建築士が透水管を使用した土地も、木曽川沿いや田の用水沿い、造成時に沈砂池であった場所など比較的地下水位が浅いことが想定される土地であったと認められる。これによれば、本件土地は、周囲に川や田等がなく、地下水位が浅いことが想定されていない土地であるにもかかわらず、地下約0.5mの位置に地下水脈があるという特異な土地であるといえる。
そして、その結果、宅地として本件土地を利用するためには透水管の設置等が必要となるところ、透水管の設置等が必要な宅地は多くないことに照らせば、本件土地には透水管の設置等が必要な瑕疵があるというべきである」
公益社団法人全日本不動産協会のHPなどをもとに作成