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もし訴訟されたら…?「医師になれば一生安泰」は幻想
2004年、福島県の病院で帝王切開における死亡事故が起きました。執刀医が逮捕されメディアで大々的に報道されました。結果としてこの医師は無罪となったものの、医療訴訟というものが社会的に認知された出来事であったことは間違いないでしょう。
2000年代は医療訴訟が急激に増加し、年間1000件以上が続いた時期でした。最近は800件程度に落ちついていますが、いつ訴えられてもおかしくないという状況には変わりありません【図表】。そのため、研修医は比較的訴訟リスクの高い産婦人科や外科を選択しない傾向があるようです。
しかし、どの診療科であっても訴訟リスクはゼロではありません。ひとたび裁判となれば、たとえ無罪となっても元の職場へ復帰するのは難しいといわれています。あくまで万一ではありますが、このような事態に備えて第二の人生を想定しておくことは必要ではないでしょうか。つまり、どのような状況になっても生きていける準備をしておくのです。
医療費削減、医師余り…「医師の収入」は減る一方
「2020年4~5月、全国133の大学病院で合計約313億円の損失」(全国医学部長病院長会議)
「開業医の9割以上が昨年(2019年)同時期と比較して患者が減り、そのうち約35%が患者が5割以上減っている」(東京保険医協会、2020年4月の調査)
――これらは新型コロナウイルスの影響によるものです。コロナ禍で外来患者が減り、経営が悪化している病院が増加しているのです。「不要不急の病院通い」=「無駄」と気づいた人たちは今後も戻らないといわれています。
そもそも以前から病院経営は、人口減による患者の減少や社会保障費(医療費)の削減などで今後難しくなるといわれていました。
社会保障費に関して政府は2040年までの見通しを公表しており、2018年度に39.2兆円だった医療費は、2040年度には最大68.5兆円(1.7倍)に増大すると推計しています(厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」)。
にもかかわらず保険料を負担する現役世代は約6500万人から約5600万人へと約15%も減少してしまう見込みです。このようなことから、国の財政のために医療費の削減は急務となっています。
医療費の削減は、医師の収入減に直結します。特に開業医は深刻で、厚生労働省が「外来医師多数区域」を公開するほど供給過多となっており、診療所淘汰の時代は目の前という見方もあります。そこに追い打ちをかけたのがコロナ禍です。まさに弱り目に祟り目という状態でしょう。
また、今後はAI(人工知能)技術の台頭も医師の収入減につながっていくはずです。
医師専用のコミュニティサイトなどを運営するメドピアの調査によると、42.6%の医師が「今後医師の需要は減少する」と回答しました(有効回答数3319)。その理由には「少子化」「お産の減少」などがありますが、特に目立っていたのがAI技術の導入です。同社では「診断領域では、すでにAIが現実になろうとしている。今後、診断や治療はある程度AIやロボットなどの先端技術の助けを借りつつも、医師は患者に寄り添うコンサルティング的なサービスに力を注ぐことになるだろう」とコメントしています。
医師の需要減少の要因は、そのほかにも「治療薬の進歩」「手術領域などへのロボット導入」などが考えられます。このようなことを踏まえ厚生労働省は「2033年には医師は余剰状態になる」と推計しています。
「医療費は削減」「医師は余剰状態」。これでは医師の収入は減る一方です。今後は、従来のように診療報酬に依存していると今の収入は維持できなくなります。
また、現在は健康診断、予防接種、コンタクトレンズ検診など比較的楽な仕事でも食べていけるようですが、それも難しくなるはずです。おそらくこのような業務に依存する医師は、弁護士同様にワーキングプアになっていくでしょう。
一方で今の収入を維持、またはより多く稼ぐ医師は、保険外診療や医師ならではのスキルを活かした起業などを行うのではないでしょうか。今後は「貧困ドクター」と「資産家ドクター」の二極化が進むはずです。