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借金9000万円を残し、開業医の夫が急逝
以前、ライフプランをしっかり立てていなかったために、残された家族が路頭に迷う一歩手前まで陥ってしまった実際にあった話をします。
ある医師が45歳のときにクリニックを開業しました。開業後は順調に患者数を増やし、5年後には年収が勤務医時代の倍以上の4000万円を超えました。
二人の子どもたちも父の背中を見て育ち、長男は私大医学部に進学していました。次男も医学部を志し、まさに順風満帆の人生、これからと思った矢先、彼は突然、脳梗塞で倒れ、50歳という若さでこの世を去り、帰らぬ人となりました。
残されたのは妻と二人の子ども、そして開業資金として融資を受けた9000万円の借金でした。
スタッフの給与、借金返済、生活費…工面しようがない
家族が生活を維持していくためにはクリニックの経営を続け借金を返済しなければなりませんでした。しかし、奥さまは医師免許をもたない専業主婦。医局は慢性的な医師不足で代診医を派遣してはくれませんでした。それでもスタッフの給与や借金は払わなければなりません。また、当面の生活費や卒業まで約4000万円以上かかる学費と仕送りも工面する必要がありました。
「もうどうすることもできない…」途方に暮れた奥さまが知り合いの医師の伝手を頼って相談に来られた先が私でした。
当時、私はその地域の医師会を担当し、医療経営セミナーを通じて多くの医療機関の支援をしておりました。訃報を聞いた別の先生から奥さまをぜひ助けてあげてほしいと依頼をいただいたご縁でした。
世帯年収4000万円なのに驚くほど少ない貯蓄額
私はまず、生計を維持するために貯蓄額を確認しました。その金額は約3000万円弱と驚くほど少ない金額でした。年収4000万円近くあったご家庭にしてはなぜ?と、最初は疑問に思いましたが話を聞くとその理由がすぐに分かりました。
一つ目の理由は開業時、借入金を抑えるためにそれまで貯めてきた預金の多くを頭金として支出してしまったこと、二つ目はご夫婦ともに開業後は計画的にお金を貯めるという考え、習慣がなくなっていたことでした。
開業して収入が順調に増えたことで余裕や安堵感から車や家、身の回りの物にお金をかけることが多くなり、生活が一変してしまったそうです。また、所得は増えましたが顧問税理士からは特にアドバイスもなく、節税対策などもまったくしていませんでした。
課税所得が1800万円を超えると所得税は40%取られます【図表】。これに住民税10%を足すと税率は50%になります。なにも節税対策をしていなければ稼いだお金の半分近くは税金として納めなければなりません。そのことにご夫婦はまったく気づいていなかったのです。
私が相談を受けたとき、奥さまは本当に憔悴しきっていました。最愛のご主人を突然亡くしたうえに、経済的に完全に行き詰まっていたからです。
最低でも1億5000万円以上必要…保険金では足りない!
私は次に生命保険を確認しました。ご主人は生命保険に加入していました。しかし、その保険金は4500万円だったのです。借入金返済や子どもたちが成人するまでの資金としては到底足りません。奥さまはその理由を次のように話してくれました。
「主人は自分が死ぬなんて微塵も思っていませんでした。私も同じです。ですから生命保険は知人とのお付き合いでなんとなく勧められるがまま入っただけでした…」
死亡保険金4500万円と貯蓄額3000万円を合わせても7500万円です。9000万円の借金、子どもたちの学費と家族の生活費を計算してみると最低でも1億5000万円以上は必要でした。
奥さまは自分で仕事を見つけようとしていましたが、長年専業主婦をしていた身ではパートくらいしかできそうになく、どんなにフルで頑張っても月収20万円に届くかどうかでした。
「もう自己破産するしかないのでしょうか?」「2人の子どもは医学部を諦めなければならないのでしょうか?」。泣きながら必死に助けを求める奥さまの藁にもすがるような表情を今でも鮮明に覚えています。もし皆さんが奥さまと同じ立場になったら何を考えますか?
「自己破産の回避」「子の進学」を実現するには…
結論から話しますと最終的にはこのご家族を救うことができました。その救出方法は次の3つでした。
【①院長を外部から招いた】
クリニックは幸いにも医療法人として運営していました。この場合、創業者である理事長が亡くなっても清算することなく理事長代行を立てることができます(個人開業の場合は清算しなければならない)。私はすぐに都道府県に掛け合い、特例申請で奥さまが法人の代表になれるよう手続きを取りました。
そして医師会に働きかけ、何度も足を運び、候補者になり得る可能性のあるドクターの情報を頼りに個別に面接を重ね、院長として働いていただける方を見つけることができました。ご主人の想いが込められたクリニックを閉院せずに済んだのです。
【②遺族年金の受給】
遺族年金とは、国の制度で被保険者が亡くなったときに、配偶者などの遺族が一定の期間保護を受けることができる年金(生活費を保障する制度)です。奥さまは遺族年金についてまったく知らなかったのですぐに手続きを代行し、受給していただくことができました。
【③奨学金と教育プランの変更】
私立大学医学部に通う長男の学費は奨学金を受給できるよう申請して無事に卒業することができました。今、彼は救命救急センターで働いています。数年後にはクリニックに戻り、父の遺志を引継ぐことを決めたそうです。しかし、次男は医学部進学を諦めることになりました。
どうして次男は医学部を諦めなくてはならなかったのでしょうか? もし、万一のときでも教育費をちゃんと工面できるよう考慮した生命保険に加入していれば、彼は夢を諦めずに済んだのかもしれません。加入する側、勧める側、今となっては誰も責めることはできません。そこにはただ、残された一つの家族の現実がありました。
皆さんが選ぶ生命保険には「大切な人、大切な家族の夢や未来が託されている」ということをぜひ、覚えておいてほしいと心から願います。
須田 一
株式会社みらいサポートホールディングス 代表取締役CEO