「非日常を読み取る力」が備わっていない人は多い
以上の四つの心理は、東日本大震災の体験談を集めた『3・11慟哭の記録─71人が体感した大津波・原発・巨大地震』(金菱清編・新曜社)で裏付けることができる。この指摘は邑本氏によるものである。
「ちょうど一年前、津波警報が出されお店を一時閉め避難したが、津波は来なかった。その事から、海が近いとはいえここまでは来ないだろうという油断が私の中にあった」(前掲書)
「父親の代から住んでいるが、いままで、自分の家まで津波が押し寄せてくることがなかったので、3メートル程度の津波なら防波堤で十分防げると思い、妻と一緒に地震で位置がずれた家具等を元の位置に戻していた」(前掲書)
「家に戻ると、妻が一生懸命後片付けをしているんです。帰ってくるときは『さあ、逃げるぞ』というつもりだったのですが、片付けている妻を見て、『あれ、津波は大丈夫なのかな?』と、津波の心配は横に置いて手伝いはじめたんですよね」(前掲書)
私たちが避難するためには、「日常」が「非日常」に変わるためのスイッチが必要になる。
以下は、実際に避難した人の肉声である。
「線路から見える渋滞の車が水に浸かり始めているのを見たときは本当に驚いて、同時に恐怖も感じた」(前掲書)
「隣の会社(フクダ電子)から何か叫ぶ声が聞こえた。逃げろ! 逃げろ! 『津波が来た』『津波だ』と……。後ろを振り向くとチョロチョロと津波の第一波が押し寄せてきた。ワァ~‼ 本当だ!」(前掲書)
普段となにか違うぞと思わない限り、私たちは特別な行動をとることがないようだ。変化の中に「非日常」を読み取る力も、多くの人には備わっていないように思う。残念ながら、私は多くの人には、備わっていなくて当然だと考えている。というのも、学習体験が少ないから、身に付いていないのである。
やはり地震予知学や災害予防学は重要で、国の研究機関が責任を持つ必要がある。緊急事態宣言の発出は、政府が責任を持ってこれをやり、NHK(準国営放送局)が国民に周知させる必要がある。
国土交通省が運営する「ハザードマップ」は、研究者の協力によって作られており、例えば大雨が降った際に、洪水が起こる可能性のある場所などがかなり正確に作られている。
とは言え、雨は広範囲に降るし、「ハザードマップ」が指定する危険な地域も広すぎて、大雨が降るたびに「うちは危ないかも」と避難の準備に取り掛かる人は少ないかもしれない。実際、ほとんどの場合が「無駄足」になる。無駄足が繰り返されれば、人の意識は麻痺してしまいやすい。
NHKのニュースでも、「ハザードマップなどを利用して早めの対応を」などと一応は注意喚起するが、無駄足が9割ぐらいになりそうなことを、本気でやる人がどれだけいるだろう。「ハザードマップ」をもう少しピンポイントで作ってほしいと思うのは、私だけだろうか。
竹内 一郎
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