※写真はイメージです/PIXTA

パニック映画では、人々が宇宙人の襲来や大規模災害に泣き叫び、逃げ惑うさまが繰り返し描かれています。しかし現実には、命が危険にさらされる局面でも、映画のような行動を取る人たちは極めて少ないのです。そこには、人間心理に「ある作用」が働いています。ベストセラー作家で、劇作家・演出家としても活動する竹内一郎氏が解説します。

「実際にパニックに陥る人」が、意外と少ない理由

小説や映画などの物語世界に、パニック物と呼ばれるジャンルがある。『タワーリング・インフェルノ』や『タイタニック』『ダイ・ハード』では、突然大きな災難が人間を襲う。

 

当然、人々は慌てふためく。多くの場合は登場人物が互いに助け合って、友情が芽生えるシーンが入る。だが、パニック物である以上、物語では多くの人が死んでしまう。

 

一方、現実世界では、人はあまりパニックに陥らないことがわかっている。パニックが起こる可能性がないわけではないが、実際にそうなる可能性は非常に低い。

 

心理学者の邑本俊亮(むらもととしあき)氏によると、次の四つの心理が働くからだとしている。

 

①「これくらいは普通だ」の心理 

 

私たちは少々変わったことが起きても、それを異常だと思わない傾向がある。学校で働いていると、何年かに一度は火災報知器が鳴ることがある。理由は、火災報知機の故障であることもあれば、学生がそうとは知らずに、報知機が反応する物を持ってきていたということもある。火災報知器が鳴ったとしても、多くの人は「またか」という気持ちになるだろう。学校で火災報知機が鳴ったために逃げ惑う人を、私は見たことがない。

 

このように「普段の生活の範囲内でのことだ」と判断し、避難が遅れてしまうケースがしばしばある。これは「正常性バイアス」と呼ばれる。

 

②「自分だけは大丈夫」の心理 

 

私たちは災害が襲いかかってくる恐れがあるときにも、自分が被災するとは思わない傾向がある。すでに述べたが「楽観主義バイアス」である。最近では、心理学の世界では「正常性バイアス」と呼ぶことが多くなってきた。広い意味では「正常性」でよいと思うが、「楽観主義」という言葉のほうが、心理状態をより正確に表現していると思う。

 

③「前回大丈夫だったから」の心理 

 

一旦自分が大丈夫だと思うと、私たちは、自分の考えを強化してくれる証拠を探そうとする。そして、自分の考えとは異なる結論になる証拠を軽視しがちになる。「確証バイアス」と呼ばれるものである。

 

警報のカラ振りが続くと、警報に対する信頼性が落ちて、警報は当てにならないと考えてしまう。新型コロナウイルスの「緊急事態宣言」がまさにそれである。ごく稀(まれ)に起こるから「緊急」なのである。緊急事態宣言がのべつ発出されれば、国民の警戒心が麻痺(まひ)するのは無理からぬことだ。この傾向は「オオカミ少年効果」と呼ばれている。

 

④「みんなと一緒に」の心理 

 

私たちはどうすればいいかわからないとき、周囲の人に合わせた行動をして安心を求めようとする。「集団同調性バイアス」と呼ばれるものである。だが実際には、みんなと同じ行動をしたために悲劇が生まれることもある。

 

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本記事は『見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか』(河出書房新社)より抜粋・再編集したものです。

見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか

見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか

竹内 一郎

河出書房新社

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