※写真はイメージです/PIXTA

何十年も前から懸念されていた、少子化、高齢化、技術革新の鈍化。しかし「大丈夫」「なんとかなるだろう」と受け流したことで、日本の社会・経済に多くの問題が発生したのは周知のとおりです。人々の認知の歪みは、ときに大きな問題を引き寄せます。劇作家・演出家としても活動する竹内一郎氏が解説します。

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人間は自分の将来を「悲観的に考えない」

人は多くの場合、自分の将来について、悲観的に考えない傾向にある。

 

日本に少子化時代が来ると予測されたのは、30年以上も前のことである。大学に入る若者が減るのだから、大学は改革して変わらなければならないと言われ続けてきた。

 

そしていま、予測どおりに日本国中に定員割れの大学はたくさんあり、倒産する学校も出てきた。少子化に向けて改革を続けてきた大学もあるが、ほとんどの大学は十年一日の如ごとしであった。

 

この例などは「楽観主義バイアス」と呼ばれる典型である。

 

大手電機メーカーも、白物(しろもの)家電は韓国や台湾が追いつけ追い越せで迫ってきているので、変わらなければならないと随分言われてきた。銀行や自動車メーカーも事情は同じ。変わらなければいけないという意識はあったが、切迫感をもって変えようとした会社は少なかったように思う。

 

大学の先生たちに経営感覚が乏しいのと同様に、大企業の社員たちにもどこかに安心感があった。楽観主義バイアスである。この心性はなかなか変えることができないが、人にはこういう特性があるということを知っていれば、心の持ちようが少しは変わってくる。

 

実際、現在の危機的状況を見据えて改革を主張していた人は、むしろ疎んじられていたように思う。というのも、将来、どんな要因が加わってくるか誰にも予想がつかないからだ。慌てて動いて、すべて無駄に終わったということもありうる。

 

将来のことは不確定要素が多いので、単純に楽観主義バイアスだけで片付けられない部分もある。だが、大規模災害の起こる可能性についてはどうだろうか。

 

関東大震災から約100年が経った。首都圏から東海地方にかけては、いつ「南海トラフ地震」が襲ってもおかしくないと言われている。東日本大震災以上の被害が出ることを、地震の専門家は異口同音に指摘している。犠牲者の数もシミュレーションされており、ニュースでも報じられている。

 

だが、国や自治体はその備えをしているだろうか。また、私たち住人も「関東大震災クラスの地震」が来るという覚悟を持って備えをしている人はごくわずかだろう。これなども楽観主義バイアスである。だが、「南海トラフ地震」に関しては、「将来のことは誰にもわからない」では済まされないはずである。

 

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本記事は『見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか』(河出書房新社)より抜粋・再編集したものです。

見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか

見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか

竹内 一郎

河出書房新社

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