前回は、事業承継に向けた「財産の洗い出し」で出てくる問題点について説明しました。今回は、事業の後継者以外の相続人に「安心感」を与える方法を見ていきます。

親族会議で財産内容等を開示し、安心感を与える

経営者と後継者で話し合いを重ね、事業財産をきちんと把握し、個人財産についても大体を後継者が把握したところで、いよいよ告知や親族会議を行う段階に入ります。

 

前述の通り、何のために親族会議を行うかといえば、その目的は後継者以外の相続人や利害関係者に安心してもらい、順調に承継を進めることです。財産の範囲を各相続人が把握していないために、相続争いが起こることはよくあることだからです。

 

実際に相続の相談を受けるときには、相続で自分だけが損をしたり相続税が納められないではないかと考える相続人は存外多いのです。だからこそ、たとえ個人財産の確定的な範囲や数字が出ていなくても、全体としてどの程度の財産があって、各相続人にこれくらいは相続させると開示しておくことは大きな安心感を与える効果があり、事業承継についても協力を促すことができます。

遺留分に相当する財産は、できれば経営者自身が用意

ただし、経営者の財産のほとんどが事業に関連するというケースでは、それなりの下準備が必要です。それらを後継者に相続させた結果、遺産相続の言わば最低保証分にあたる遺留分相当の財産さえ他の相続人に与えることができないのでは、安心感を与えるどころか不信感や争いのもととなってしまいます。

 

もしそのようなことになると、この段階で事業承継はつまずいてしまいかねません。最低でも遺留分に相当する財産は、後継者以外の相続人にきちんと遺せるように配慮し、できれば経営者自身が用意すべきです。

 

しかしながら、この段階ではすべてを明確にする必要はありません。事業財産については確実に、ただし個人財産を含めた財産全体は大まかでも問題ありません。財産に関しては、大枠を捉えること、事業財産を明確にして後継者に引き継がせる準備と個人資産の中から後継者以外の相続人分を用意できることの確認ができればよしとすべきです。

 

全体として1年という短期での承継という目標があるとはいえ、最重要事項は事業承継の成功です。きちんと時間をかけることにはかける、配慮すべきポイントは押さえるという具合に、常に優先順位を意識することが重要なのです。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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