前回は、事業の後継者以外の相続人に「安心感」を与える方法について取り上げました。今回は、事業承継後の新体制を見据えた「幹部社員への後継者告知」の方法を見ていきます。

会社を支えてきた幹部社員の処遇は慎重に

親族や他の相続人に承継について告知した後は、会社の幹部社員へ後継者決定の告知を行います。

 

まずは幹部社員への告知です。これは「後継者が決まりました」という報告をして終わりではありません。ここでは、幹部社員たちの今後の処遇について、はっきりとした見通しを伝えることが大事なのです。

 

会社の屋台骨を支えてきた幹部社員に対しては、二通りの方向が考えられます。残ってもらうか勇退してもらうかです。新体制での会社の運営方針を考慮しながら、経営者と後継者で慎重に検討し、現幹部社員に会社に残ってもらうのか、退社してもらうのかを決めなければなりません。

 

今後も変わらずに事業を支えてもらいたいと判断するのであれば、彼らの反感を買ってしまっては会社の経営がうまくいくはずなどありません。ただし、逆に新体制を新たな人材を中心に動かしたいというケースもあるでしょう。現幹部社員には退いてもらいたいという場合です。古参の社員ですから人件費も高く、後継者の下で活躍してもらうのでなければ事業効率を上げるための足かせにもなりかねません。

 

そのいずれにせよ、幹部社員の処遇にはどれほど慎重になっても過剰ということはないのです。これまで、多くの事業承継をサポートしてきた筆者の経験から申し上げれば、現経営者の下で会社を支えてきた功労者である彼らには、最後まで勤められるように配慮した方がよい結果に結びつくことが多いのです。

現幹部社員に次世代の幹部人選を相談する方法も

現幹部社員への処遇とともに重要なのは、次世代の幹部社員、あるいは幹部候補への目配りです。後継者に足りない部分を最初に補ってくれるのは、この次世代幹部たちといえます。

 

特に後継者がこれまで外部で働いていてまだ社内での経験が浅い場合などには、年代も近い彼らがよき相談相手になり様々なサポートをしてくれるはずです。まだ社内で彼らを明らかにしていないのであれば、この段階で指名しておくのがベストでしょう。最低限、候補となる面々には個別でも構いませんのでその旨を告知しておきたいものです。

 

「次世代ボードメンバー」となる社員をここで発表できると、そのメンバーに選ばれた社員の側にもやる気が出てきます。そのやる気が、新体制を支えていくひとつの大きな原動力になるのです。

 

また次世代幹部、あるいはボードメンバーを決める際には、後継者から現幹部社員に相談し意見を聞いてみることも有効です。「この人たちを次世代と考えているがどうだろう、大丈夫だろうか」と相談をすることで、後継者と現幹部社員との信頼関係が深まります。また、ここで次世代幹部候補たちのパーソナリティについて、今までは知らなかった面を現幹部社員から教えられることもあるでしょう。

 

さらに、このプロセスを経ることで、現幹部社員にとっても、次世代を育てている間は自分が会社にとって十分意味のある存在であるという安心感が生まれるかもしれません。同時にそれは「あなたたちを信頼している」という後継者からのメッセージにもなります。

 

たとえば、M&Aを行うときにも同じですが、キーマンには少し先行して情報を渡すのが成功の秘訣です。このような配慮を行いながら、後継者の告知というプロセスを慎重にこなせば、現幹部社員と次世代幹部社員の双方に対し、承継へのモチベーションを高めることもできるのです。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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