前回は、事業承継のスタート時に明確化すべき「財産」の種類について取り上げました。今回は、事業承継に向けた「財産の洗い出し」で出てくる問題点について見ていきます。

個人財産の存在を隠したい経営者も多いが・・・

財産の洗い出しに関してはもうひとつ大きな問題があります。

 

実は経営者が個人財産の内容をすべて後継者に伝えていないことが非常に多いのです。中には、名義株や名義口座が存在しているにも関わらず、そのことを誰にも知らせないまま亡くなってしまい、相続の際にはじめて発覚したなどということも少なくありません。

 

事業承継に積極的な経営者の方でも、個人の財産についての話となるとアバウトになってしまうことはよくあります。筆者自身、いざ相続となったときの準備のため、相続税がどれくらいになるかの見当をつけようとして財産について尋ねても、「大体これくらいで試算してくれ」などと詳細を明らかにしてくれない場面は幾度となく経験してきました。もしくは後継者の方から、「親父がすべての財産を教えてくれなくて困っている」と相談を受けることもあります。

 

創業者をはじめとして、ご自身で財産を築いてきた方であればあるほど、苦労して手に入れたものが少しでもなくなること、つまり、「喪失」することへの恐怖感を持っておられることが多くなります。

 

そしてこれは経営権の移譲の際にも同じです。自分から経営権というものがなくなってしまうというのは、会社そのものを喪失したような感覚に陥ってしまうのだと思われます。ただ、いつまでも会社と経営者の地位に固執してはいられないし、そうするべきではないのは、自分自身も十分分かっているはずです。会社も土地も財産も、お墓の中まで持っていくことはできません。

 

一旦事業承継を行ってしまえば、自分はお払い箱になり、これまで築いてきた自分の地位が低下してしまうと感じられる場合が多いことは確かでしょう。とはいえ、きちんと事業承継を成功させた元経営者に対して、後継者はどんな場合も敬意を持ち続けるはずです。

個人財産の土地に事業用の建物が立っている場合も

個人財産と事業財産を分け、事業資産を完全に把握した段階で、新たな問題が明らかになることがあります。その代表的な例は個人財産の土地の上に、事業用の建物が立っているケースです。実はこれは非常に多く見られます。

 

この場合は兄弟や親族に事業承継と後継者を定めたことを伝える前に、あらかじめ経営者と後継者の間でどのような処分方法を取るか話し合っておくべきです。

 

もちろん、会社が購入して資産とするか、後継者が相続するかが基本となるのですが、立地がよく、利便性が高い土地、あるいは単純に評価額の高い土地であれば、他の相続人が欲しがることも大いにあり得ます。

 

しかし、後継者とは別の相続人が相続することになった場合などは厄介です。たとえば、何らかの事情でその相続人がこの土地を売却したいとなったときに、後継者あるいは会社が買えるならばよいのですが、経済的にそれが困難な場合、業務に大きな支障をきたします。また、後継者とその相続人が仲たがいをしてしまい、半ば嫌がらせで土地を売却せざるを得ないような事態にもなりかねません。

 

もちろん、こうしたことが必ず起こるとは限りませんが、万が一そのような事態になると事業の基盤を揺るがしかねないことにもなり得ます。そこで、後継者が安定して経営に専念できる環境をつくるという観点からも、やはり事業承継の段階で、そのような土地は後継者か会社に帰属させること、そのための準備を行うことが必須となるでしょう。

 

さらに、このケースでは土地をどうやって引き継ぐのかばかりではなく、借地権についての問題も発生する可能性があります。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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