(※写真はイメージです/PIXTA)

半世紀ものあいだ「生産性が低い」と言われ続けている日本ですが、決して「ハイパフォーマー」な人材がいないわけではありません。ハイパフォーマーを雇用できても「台無し」にしてしまう、日本ならではの事情について見ていきましょう。

海外企業に比べて「昇格レース」が遅いことも問題

日本企業は海外の生産性の高い企業と比較すると昇格レースの開始も遅いといえます。入社10年目ぐらいになって初めて、早い人が役職に就くというのが一般的な日本企業です。

 

なぜそのような会社が多いかといえば、あまり若いうちから実力差をあからさまにしたくないからです。年功序列の会社では一度選抜から漏れるとその後の逆転はほぼ不可能です。若いうちから選抜競争があると、負けた人は「諦められた人」となってしまうことになります。諦められた人のモチベーションは当然下がります。モチベーションの下がる人が毎年のように増えてしまうと、企業は成り立ちません。

 

しかしそれは、アベレージパフォーマーのモチベーションを維持するために、ハイパフォーマーの成長や可能性を犠牲にしていることになります。年功序列ではなく、逆転可能な制度にすれば、早期選別で組織のモチベーションは下がりません。しかしそこまで踏み込める会社が少ないのです。

 

また、人事評価の主眼が人材育成(HR)ではなく、昇格や給与・賞与査定の平等さにあることが早期選抜を妨げています。この考え方だと、部長昇格までは全役職者での競争となり、それ以降の役員選抜でようやく本当の意味でのエリート選抜となります。言い換えると、部長選抜は部長になれない人を落とすプロセスですが、役員選抜は役員としてふさわしい人を選ぶプロセスだということです。となると、ハイパフォーマーにとっての本当の選抜は役員選抜ということになり、年功序列の日本企業では相当な年次になるまでハイパフォーマーの選抜が行われないわけです。それまではほかのアベレージパフォーマーとの競争ということになり、長い間本当の意味での成長機会を失うことになるのです。

 

これが事業も組織も急拡大していた高度経済成長期でしたら、ことさらに競争しなくてもハイパフォーマーには自然と競争の機会が与えられていました。しかし低成長期に入ってからは、入社年次や肩書きなど立場に応じた役割しか与えられなくなりました。ハイパフォーマーの育成機会は低成長期になって減ってしまい、日本全体が低成長から抜け出せなくなってしまったといえます。

 

かつてマイクロソフトは、Windows Vistaを開発した際に、2万5000人のプログラマーで5年間の開発期間を要したといわれています。そのような多大な工数と年月をかけながら、Vistaは品質や性能でユーザーの不評を買い、早々に市場から消えました。

 

一方アップルは、自社の新しいOSを開発する際に、6500人のプログラマーを使って半年で完了させたといわれています。こちらはユーザーから品質も性能も評価されました。

 

付加価値の比較が難しいのですが、仮に2つのOSが同程度の機能をもち、それゆえ同じ価値をもつものだとします。そうすると、開発生産性に約25倍の開きがあったことになります。マイクロソフトの開発陣にも当然ハイパフォーマーがいたはずですが、アップルはハイパフォーマーを多くそろえて開発した結果だと考えられます。

 

日本では意図的ではないにせよ、結果として、桁違いの生産性をもつ人も普通の人と同じ程度の生産性に抑えているようにさえ見えます。海外企業やグローバル企業との競争で勝てるはずがありません。

次ページハイパフォーマーを育成する3つの方法

※本連載は、梅本哲氏の著書『サイエンスドリブン』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事

サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事

梅本 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

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