【関連記事】お金を借りるときには「ひと言」…融資が受けやすくなる裏ワザ【税理士が解説】
融資を受けるなら「創業前」が最大のチャンス
「雨が降る前に、晴れのうちに傘を借りるべし」。お金を貸す側に立ってみれば分かると思うのですが、お金がない人(会社)、つまり回収の可能性が低い人に、多額の資金を貸したいと考えるでしょうか。慈善事業ではないのですから、誰もが答えは「NO」のはずです。つまり、困ってから融資を受けたいと思っても、時すでに遅しなのです。会社の業績が悪化する前に資金調達をすることが重要です。
ではその最大のチャンスはいつでしょうか。好調な業績をキープし続けられれば、時期を選ぶ必要はありませんが、商売は浮き沈みがあるのが常です。
ビジネスを始める際には創業資金が確実にかかる一方で、売上は見通しが立ちにくいものです。売上が安定し、黒字転換するには、平均して創業後6~7ヵ月かかります。
経営がどうなるか分からないならば、数字で明確に“通信簿”、つまり業績が明らかになる創業前に借入を実践します。これが創業後、1~2年で資金が枯渇するようなリスクに対する布石となり、金融機関にとっても「計画性をもって資金調達を実践している」という評価につながるのです。
「創業前なら借りられたものを…」という会社は多い
創業前融資の最大のメリットは、決算書(個人事業主の場合は、確定申告書類や売上実績)がなくても借りられることです。
審査の基準となるのは、創業前の会社員時代の経験値などの経歴、自己資金、さらに事業プランが明確か、将来性があるかどうかです。
“商売は水物”で、蓋を開けてみなければ分からないものですが、創業前に限っていえば、計画性をもって、事業につながる一定の経験を積み、自己資金を貯め、事業プランをしっかりと練っておきさえすれば融資を受けられる可能性は高いのです。
逆にいえば、創業前なら借りられたものを、創業半年経ったところで業績が赤字になってしまったゆえ、“借りられない人”へと転落してしまうケースも多々あります。
創業当初は、最初にかかる設備資金をはじめ、あれこれと持ち出しが多く、貯えたつもりの現預金もみるみるうちに減っていきます。時間が経ち、手元資金がなくなり、業績が数値でクリアになってくるほど、資金調達は難しくなるのです。
だからこそ、いちばん借りやすい創業前・創業時に融資を受け、余剰資金をつくっておく。こうして借入れと返済の実績を積むことが、その後の融資につながっていくのです。
「創業前の融資」を実践した会社、しなかった会社の差
創業前の融資の実践の有無によって、経営の明暗を分けたAさんとBさんのケースをご紹介しましょう。
■事例:「創業前の融資900万円」で売上低迷を乗り切ったAさん
Aさんは脱サラで飲食店を開業。数年かけて競合店も研究し、こだわりのメニュー、内装でオープンにこぎつけます。ところが予算の関係で立地がいまひとつ辺鄙だったこともあり、たちまち鳴かず飛ばずの閑古鳥状態に陥ります。
毎日、せっかく仕込んだ料理や食材をやむなく破棄するような苦しい数ヵ月を過ごすことになりますが、そのときの生活の支えとなったのが、創業時に受けた融資の900万円でした。Aさんは、綿密な独立プランを立て、会社員時代に貯めた預金も潤沢にあり、店舗資金も自己資金内でまかなうことができました。必ずしも融資を受ける必要性はなかったのですが、自己資金があったことと事業計画がしっかりしていたこともあり、融資を受けることが可能と分かり、「万が一のために借りておこう」と決断したのが功を奏したのです。
その結果、利益がほぼゼロの状態が続くなかでも、メニューや業態を再考し、リスタート。見事、経営を立て直すことに成功したのです。
■事例:「創業前の融資」を受けずに失敗したBさん
もう一人のBさんは、不動産会社勤務を経て、不動産販売のビジネスで独立。前の会社では敏腕営業マンとして知られ、最初から好立地に広い事務所を構え、スタッフも雇用し、万全の体制で独立を果たします。
自己資金とキャリアから見ても、融資を引き出せる素養を兼ね備えていたものの、自信があったのでしょう。融資を受けることなく事業をスタートしました。
ところが、運悪く不動産市況が陰りを見せ始めた時期と重なり、売上がダウン。家賃の安いオフィスに移転し、スタッフも減らしたところで、金融機関にも融資を申込みますが、売上、利益とも低迷している状況で貸してくれる銀行は現れません。結局、借入ができないまま、資金が枯渇。会社をたたみ、再び会社員に戻ることとなりました。
ビジネスに“絶対”はありません。ならば、借入ができるときに借りておく。資金についても創業前からの万が一に備えた融資の実践が成功のカギを握るのです。
田原 広一
株式会社SoLabo 代表取締役