300年でも使えるほどの耐久性を身につけた
試作を繰り返してようやく、切り出した1枚のステンレス板にヤスリで細かな凹凸をつけると、食材がフライパンにくっつきにくくなることを発見しました。
「凹凸は大きいほうがいいのではないか?」
「いや、もっと小さいほうがこびりつかないのではないか?」
「駄目だ!次はもっともっと小さく……」
試作ではこびりつきを確認しつつ、何度も形状の変更を行いました。
諦めかけていたころ、丸山さんから連絡が入りました。
「見せたいフライパンがある」
あるとき佐藤さんは、放射状に膨大な極細目打ちを施すという世界でも例のない表面加工を思いつき、試しにやってみたそうです。すると、これが奇蹟を生みます。
あれだけ表面にこびりついていたステーキ肉が、油を一滴も使わずとも一切くっつかずに焼けるフライパンが生まれたのです。数千発も機械で叩き上げることで金属が締まり、耐久性が一段と向上するという、「受け継ぐ」には最高の副産物までもらたしたのです。
最高の機能を持ったフライパンは、まるでアート作品のような美しいデザイン性と実用性を兼ね備えた最高の逸品となりました。構想から5年、着手から3年経った2017年、やっと飯田屋オリジナル「エバーグリル」が完成したのです。
価格は2万7500円。「重い」「値が張る」「用途が限られる」という三重苦を背負いながらも、「錆びない」「変形しない」「焦げつかない」「受け継げる」特性を実現し、300年でも使えるほどの耐久性を兼ね備えました。しかも、もっともゆっくりと熱を肉に伝えられるので肉が縮まずに肉汁を閉じ込めて、ふっくらとジューシーにステーキを焼き上げることができます。
佐藤さんが一日がかりでやっと数本しかつくれないエバーグリルは、手作業ゆえ一つひとつが異なる表情を持っており、同じフライパンは世の中に二つとしてありません。一つずつ見比べながら、お気に入りの1本を探す楽しみも加えることができました。
「社内には理解してくれる仲間がいなかった」と、二人は開発を振り返って笑います。どれだけ孤独に耐えながら取り組んでくれたのかと、胸が熱くなりました。
「エバーグリルは必ず評判になる。間違いなく多くの人を幸せにする道具になる!」
僕は確信していました。
それが、まったく日の目を見ない日々が続くなど、このときは知る由もなかったのです。
飯田 結太
飯田屋 6代目店主