「理想のフライパン」を作ればいいと考えた。

「錆びない」「変形しない」「焦げつかない」「受け継げる」という4つの要素を兼ね備えたフライパンはありそうでない。ないなら自分で「理想のフライパン」を作ればいい。飯田屋6代目店主の挑戦を著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)で明らかにします。

「儲からない商売はできない」と猛反対

■本物を目指した作りての情熱

 

笑われても僕は諦めきれません。

 

新潟や大阪など金属加工で有名な産地へ問い合わせを続けていたある日、JETRO(日本貿易振興機構)からフッ素加工フライパンの海外輸出について、販売者の専門家として呼び出しを受けました。そこには、僕のほかに2社のメーカーが同席しており、そのうち1社が世界で初めて200ⅤのIHクッキングヒーター用の鍋を開発した新潟県燕市のフジノスでした。

 

会議終了後、フジノスの出席者で、営業の丸山俊輔さんに駄目を承知で自分のアイデアをぶつけてみました。すると「おもしろいですね! ちょっとやってみましょうか?」

 

と、まさかのお返事をいただけたのです。

 

丸山さんがこの案件を社内で相談したところ、「そんな儲からない商売はできない。やるなら一人でやれ!」と猛反対にあったそうです。しかし「どんなに小さな商いでも、当社の技術が役に立つはず」と考えた丸山さんは、技術者の佐藤友昭さんに相談をしました。

 

穏やかな丸山さんとは対照的に、いかにも職人という雰囲気の佐藤さんは、前例に囚われない独特な商品をつくる社内でも超異端児的な存在でした。佐藤さんも「おもしろいんじゃない。やってみようか」と、二つ返事で引き受けてくれたのです。

 

しかし、会社から公式に認められていない状況に変わりはありません。最初のプロトタイプは、会社に迷惑をかけないよう通常業務後に試作づくりに取り組んでくれたそうです。

 

試作品をつくる際は、金型にかかる経費の相談から始まるのが一般的です。その費用は何百万円、ときに何千万円と高額で、断念せざるを得ない場合がほとんどです。今までに断られたメーカーでも、この高額すぎる金型費用ゆえに断念したケースが多々ありました。

 

しかし、丸山さんも佐藤さんも「いいものをつくるには、手間がかかるのは当たり前。手間をかけて本当にいいものをつくろう」と、金型をつくらずに一つずつ手作業で何度も試作品をつくり直してくれたのです。その気骨ある姿には胸が熱くなりました。

 

ステンレス製のフライパンには食材がこびりつきやすいという難点があります。

 

「もっとこびりつかない方法はないか」「もっと使いやすくなるアイデアはないか」と打ち合わせは繰り返されるも、ゴールは見えません。何をやっても、フライパンには食材がべったりこびりつき、洗うのも一苦労です。

 

次ページ300年でも使えるほどの耐久性を身につけた

※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

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