過失による損耗は、耐用年数を超えていても請求可能
半額を賃借人に負担させた理由について、裁判所は以下のように述べています。
「賃借人が本件物件を明け渡した時点において、1階台所の壁クロスは著しく汚れており、賃借人は、賃借人としての善管注意義務に反して本件物件を使用しており、その使用状態のまま本件物件を明け渡したと認められる。」
「上記のような状態で本件物件を明け渡された賃貸人としては、本件物件を新たな賃借人に賃借するために1階台所の壁クロスの張替えを実施せざるを得なかったということができる」。
「賃借人は、ガイドラインによれば、壁クロスの耐用年数は6年であり、本件物件の明渡しの時点においてその価値は0円又は1円であるから、賃借人が負担すべき費用は、0円又は1円であると主張するが、ハウスクリーニングと同様に、仮に耐用年数を経過していたとしても、賃借人が善管注意義務を尽くしていれば、壁クロスの張替えを行うことが必須とは解されないから、賃借人の上記主張は採用できない。」
「なお、ガイドラインによっても、「経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得る」とされているところである。」
以上が裁判所が賃借人負担を認めた理由となりますが、裁判所が原状回復費用の半額を賃借人に負担させたのは、賃貸人が当初より半額を請求していたからと考えられるところです。
したがって、もし仮に賃貸人が半額以上の金額を賃借人に請求していた場合、裁判所は賃借人に対し半額以上の負担を命じていた可能性も考えられます。
なお、上記裁判例で触れている国交省のガイドラインの指摘部分は
との部分になります。
以上を踏まえると、賃借人の原状回復義務の考え方としては
1 通常損耗部分については、賃借人の原状回復義務は生じない。
2 通常損耗を超える損耗部分(賃借人の故意・過失による損耗)については、賃借人に原状回復義務が生じる。
3 賃借人に原状回復義務が生じるとしても、修理・交換費用について耐用年数を経過している分については、賃借人は負担する必要がない。
4 実際に使用を続けられる状態であったにも拘らず、賃借人の故意・過失により使用不能にされてしまった設備については、耐用年数を経過していたとしても賃借人が修理・交換費用の負担を負うべきである。
ということになると考えられます。
実務においては、4の場合に当てはまるかどうかの判断が問題となるケースが多いと考えられますので、この点は退去時に賃借人と慎重に協議すべきところです。
※この記事は、2020年12月5日時点の情報に基づいて書かれています(2021年12月22日再監修)。
北村 亮典
弁護士
こすぎ法律事務所
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