前回は、不動産業界で「サブリース」が誕生した経緯を紹介しました。今回は、オフィスビルの価値を左右する「プロパティマネジメント」などについて見ていきます。

テナントのニーズに応えるための必要なPM・BMとは?

プロパティマネジメント(PM)、ビルメンテナンス(BM)といった概念は10年ほど前にアメリカから日本に入ってきたものです。それまではすべてをひっくるめてビル経営といい、昔の大家さんはそのすべての業務を自分でやっていました。ビルの数が少なく、設備がどうの、セキュリティがどうのとあれこれ要望がなかった時代には、それでもやっていけたのです。

 

しかし、今は違います。ビルは増え、建物の構造や設備は非常に複雑になり、テナントは見た目や快適性にもこだわるようになっています。そうしたニーズに応えるためには、経営をある程度分けて考え、ニーズに応じたサービスを提供する必要があるのです

 

さて、2つの概念のうち、わかりやすいのはBMでしょう。これは言葉どおり、建物の管理です。掃除、設備点検など、ビル経営のうちのハード部分のメンテナンスのことで、作業内容自体は大昔から変わっていません。

 

ただし、その作業を一括発注にするか、分離発注にするかは考えどころ。分離発注の場合には、オーナー自らが発注するため中間コストが抑えられ、コスト削減はできますが、関係してくる会社が多くなると、管理に手間がかかり、面倒になります。一括発注の場合はすべての業務を一社で管理できるので手間は省けるものの、コストは余分にかかります。いずれの発注方法にもプラスとマイナスがありますから、経営方針、オーナーがビル経営にさける時間の事情から考えていくことになります。

ビル経営の成否を決めるプロパティマネジメント

次にPMですが、これはBMよりも広汎な仕事です。言葉では資産管理となりますが、機械的に管理だけしていればよいわけでなく、資産の価値を向上させることも含まれると一般的に認知されています。具体的にはテナント、オーナー双方との折衝窓口となる仕事とされ、不動産を賃借するテナントの誘致、契約に至るまでの交渉、賃貸借業務の代行、賃料・共益費などの請求・回収、トラブル時の対応など。

 

ビル自体の価値の向上を含めて考えると、どういったPMを行うかによってビル経営の成否は左右されるわけですが、残念ながら、この部分の重要性を理解して業務を行っている会社は少ないようです。

 

たとえば、一部のビル経営のプロともいうべき会社を除けば、PМ会社の大手ではプロパティマネジャーはひとりで30~40棟を管理するのが一般的です。しかし、それだけの数を管理していた場合、現場の細かなところまでわかるとは思えません。しかも、ビルの数が30棟だとしたら、テナントの数は1棟に10社としても300社にも及びます。これできちんと目が届くものでしょうか?

 

目の前の仕事に追われている状態では当然、自分から問題を発見、改善するといった積極的な経営はできません。百歩譲って価値の維持はできたとしても、向上への努力は無理でしょう。また、銀行出身のプロパティマネジャーは数字のチェック、数字のみのコストカットには長けていますが、価格だけしか見ずに管理会社を選定するのは大きな間違い。単なるコストカットとしての管理費用削減が失敗を招きやすいことは以前解説したとおりです。

 

しかし、大半のプロパティマネジャーは管理会社の値段の違いが何を意味しているのかもわからず、知ろうともしていません。本当の意味でコストを削減するには、指紋ひとつ残さず掃除するためには清掃スタッフが何人必要かというところまで考える必要があるのですが、そこまでの詳細を知るプロパティマネジャーは他社には存在しません。

本連載は、2010年12月21日刊行の書籍『空室を抱える中小オフィスビルオーナーのための満室ビル経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

佐々木 泰樹

幻冬舎メディアコンサルティング

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