(※写真はイメージです/PIXTA)

後継者がいないために事業を存続できない…日本には今、こうした「廃業するにはもったいない会社」が数多く存在します。一般的な事業承継といえば、「親族内承継」や「社内承継」、「第三者へのM&A」の3つ。しかし、少子高齢化や株式譲渡などのハードルから、いずれも選択できずに結局廃業を選ぶ会社も少なくありません。自らも資金面の問題から一般的な手法では会社を継ぐことができなかったという宮部康弘氏が、日本の事業承継問題の実態を解説します。

事業承継を困難にする3大ハードル

「事業の将来性がない」とか「地域に発展性がない」という場合は、承継は困難かもしれませんが、せめて「事業は続けたいが、後継者がいなくて廃業せざるを得ない」という3割の企業を廃業から救い出せたら、日本の未来も変わって来るはずです。

 

しかしながら、後継者不在の問題は一朝一夕には解決しないのです。

 

中小企業が自社で後継者を育てる仕組みがあれば良いのですが今まさに後継者問題に直面している高齢オーナーにとって、仕組みを一から作り、何年もかけて後継者を育てるだけの時間的余裕はありません。

 

では、社外から後継者になれる人材を見つけて来れば解決するかというと、これも難しいのが現状です。そもそも後継者を見つけるシステムがこの国には未整備です。

 

仮に好人材が見つかったとしても明日からすぐ会社を任せられるわけではなく、やはり自社に合わせた経営やリーダーシップ教育の期間が必要です。

 

すでに後継者が育っている場合でも、自社株を買い取らせるための資金調達が難しかったり、後継者をサポートする幹部たちが育っていなかったりといったハードルがあります。

 

さらに、社長自身が社長業の引退に前向きになれない事情や引退後の生活への不安などもあって、事業承継が先延ばしになっている場合もあります。

 

事業承継が進まない理由は次の3つがあります。

 

①自社で後継者や幹部を育てる余裕やノウハウがない

②自社株評価が高く、後継者に資金力が必要

③社長に引退への意欲がない

 

これらを全部解決することができないと事業承継は成功しません。

①自社で後継者や幹部を育てる余裕やノウハウがない

後継者や後継者を支える幹部を育てるというのは、大企業でも大きな課題です。海外では大学に「グローバルリーダーシップ」などのプログラムがあり早くからリーダーシップを学びますが、日本では力を入れている大学はまだ少数です。

 

また、日本では会社に入ってからもある程度の実績を積まないと役職が与えられません。そうすると、部下ができてリーダーシップを意識するのが、30代後半とか40代頃になってしまいます。そこから勉強して現場でリーダーシップを発揮できるようになるまでには更に時間がかかります。

 

だからこそ、大企業では人材開発・育成のための専門部署や担当者を割いて、会社ぐるみで未来のリーダーを育てているのです。

 

しかし、中小企業では専門の部署や担当者を置くだけの資金的な余裕もなければ人材の余裕もないのが普通です。外部から講師を招くのも1回や2回では効果が薄いのです。継続してとなるとお金がかかります。

 

そもそも従業員数十人規模の会社で、将来リーダーになれる可能性のある人材を育成するのは困難です。

 

また、将来のリーダー候補として育てた人材が流出しやすいことも頭の痛い問題です。リーダー候補になれる人材というのは優秀な人たちなので、他社にヘッドハンティングされたり自身でキャリアアップを目指して転職していったりしがちです。

 

そもそも中小企業ではオーナー自身も人材育成をされて今のポストにいる人は少ないのです。もともと持っていた素質の高い人が創業したり後継者に抜擢されたりしているケースが多く見られます。「天才は良い指導者になれない」とよく言われるように、持ち前のセンスと才能でリーダーになれてしまった分、人に教えるのが苦手な傾向があるようです。

 

また、中小企業では多くのオーナーが現場のプレイヤーを兼ねています。私の身近にも経営と製造責任者と営業を一手にやっている社長がいます。

 

こういう場合、日々の仕事で一杯になってしまい社員の育成にまで手が回らないというマンパワーの限界があります。「後継者不在をどうにかせねばと常に頭にあるのだが、正直言ってそれどころじゃない」というのが本音のようです。

 

もう1つ、後継者が育ちにくい理由を挙げるとしたら、中小企業ならではの「朝令暮改の経営」があります。世の中の動きが早く、物事が常に流動しているため、朝決めた方針が夕方には変わってしまうことが多々あります。社長も迷いながらその時々で最善と思えるものを選択して行くと方針転換が増えてしまうのは当然のことです。

 

朝令暮改の経営が常態化した会社では社長の言うことに付いていくしかありませんから、組織がイエスマンばかりになりがちです。中小企業が生き残っていくためのスピード経営にはワンマン的な強いリーダーシップが必要なのですが、それと引き換えに、自主的に考えて動く人材が育ちにくくなります。後継者になり得るような自分で考えて動きたい人材は社風に馴染めず、転職して出て行ってしまうのです。

 

これはある意味では仕方のないことなのですが、事業承継という点では非常に不利になります。

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    ※本連載は、宮部康弘氏の著書『オーナー社長の最強引退術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    宮部 康弘

    幻冬舎メディアコンサルティング

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