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デルタ株出現後、米国で「小児感染者の入院」が急増
新型コロナが世界中に負担を課すに至ってから、まだ2年も経っていません。
当初は、新型コロナでは高齢者が危険と認識され、ワクチン接種も急速に拡大されました。その結果、高齢者の死亡は減少してきました。しかし今、世界で注目が始まっているのは小児に対する感染とその対策です。
一般に、小児ではCOVID-19に罹患しても軽症であると言われて来ました。
しかし、今後、第6波以降においては、必ずしもそうではないかもしれないのです。
トップジャーナルの一つである米国の米国医師会雑誌(JAMA:Journal of American Medical Association)が扱っているNews From the Centers for Disease Control and Prevention(米国疾病管理予防センターからのニュース)というセクションによれば、デルタ株(B.1.617.2)が主要な循環株となったことで、2021年の夏、米国の小児および青少年層(10-17歳)のCOVID-19による毎週の入院率が5倍に増加したとのことです。米国でのデルタ株の定着に伴い、8月中旬には小児および青年層10万人あたりの週間入院率が1.4(6月中旬から7月上旬では0.3人/10万人)に上昇し、2021年1月上旬のピーク時の10万人あたり1.5人にほぼ匹敵したようです。
※1 JAMA『Delta Variant Linked With Spike in Youth Hospitalizations』(2021/10/12公開. https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2784947)
この期間、17歳までのすべての年齢層で入院件数が増加しましたが、最も顕著だったのは、4歳以下の子ども、および青少年層の10万人あたりの入院件数が0.2件から約2件へと約10倍に増加したことです。また、12歳以上の青少年にワクチン接種が可能だった6月下旬から7月下旬にかけて、ワクチン未接種の青少年の入院率は10万人週あたり0.8人で、ワクチン接種を受けた青少年の入院率の約10倍でした。
また、パンデミック全体を通して、COVID-19関連の入院率は、4歳未満の小児で最も高く、次いで12歳から17歳の小児群で高くなっています。
しかも、入院した小児の約4分の1が、デルタ株が出現する前後に集中治療を必要とし、人工呼吸を必要とする割合は、デルタ株が広まるにつれて、約6%から10%に増加したとのことなのです。
日本でも「小児の感染・入院」は「4歳未満」が最多
では、日本の状況はどうでしょう?
日本小児科学会が公開している20歳未満児の感染(4,022人、任意登録、2021年12月第4週まで)のデータをみると、感染年齢の上位は1-4歳が28.3%(1,138人)、続いて10-14歳が25.7%(1,035人)、5-9歳が25.6%(1,030人)となっています。米国とは、入院の適用基準が違いますので一概には言えませんし、死亡例こそ2例しか登録はされていませんが、4歳以下の感染者が多くを占めるという点では傾向が似ているかもしれません。いつ米国のような状況にならないとも言えません。
感染経路でみると、家族内感染が最多の71.0%(2,856/3,996人)です。私が前回投稿した議論『Vol.189 家庭内療養は、最良の対策ではない』(http://medg.jp/mt/?p=10545)とも整合性が出てきます。
※2 日本小児科学会『COVID-19 日本国内における小児症例』(Accessed 2021/12/23. https://www.coreregistry.jp/CoreRegistry_COVID19_CRF_Dashboard/Home/DashBoardviewer)
注1 これらのデータは、タイムリーな全数報告ではありません。
注2 小児科医からの報告という性質上、10代後半の報告は少ないことをご承知ください。
つまり、日本においても、第5波で行ったような自宅療養で小児への感染を拡大させると、米国と同様の事態(重症化小児例の増加)が生じてしまう懸念があります。
重症化はしなくても「長期的後遺症」が生じる可能性
一方で、重症化はしないとしても、気になるのが長期的後遺症です。Long-COVIDと言われる後遺症が日本で感染を経験した小児の中で散見される印象があります。私が非常勤で外来を担当している中でも、家庭内感染を経験した15歳以下の小児が受診し、「考えがまとまらない、突然頭痛が出現する」と言った訴えをすることがあります。
Long-COVIDに関しては、明確な世界共通の定義はまだ確定していないものの、英国や米国の定義をまとめると、「COVID-19発症後4週以降も遷延する症状、あるいは遅発性に出現する症状」ということになります。
英国内の統計によると、COVID-19感染後に持続的な疲労感、息苦しさ、Brain Fog(脳にもやがかかったような状態)、抑うつなどのLong-COVID症状をもつ患者さんは、2021年7月4日時点で、945,000人(人口の1.5%)が自己申告による症状を有しており、その中には2~16歳の子どもが34,000人含まれているようです。
※3 Understanding long COVID: a modern medical challenge(2021.8.28公開)
※4 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)01900-0/fulltext
これらの症状がいつまで続くかは明らかではなく、中国から発表された論文によると、COVID-19生存者のうち1,276人で経過を追いかけることのできた方たちをみると、少なくとも1つの後遺症がある患者の割合は、6ヵ月後では68%(831/1,227人)、12ヵ月後では49%(620/1,272人)いたそうです。COVID-19が世界的に注目を浴びるに至ってからまだ丸2年経過していないため、不明なことが多いのは仕方のないことかもしれません。
※5 1-year out comes in hospital survivors withCOVID-19: a longitudin alcohort study(2021.8.28公開)
※6 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)01755-4/fulltext
これらをみても、子どもへの感染をできる限り予防しなければならないことが、肌感覚で実感できます。
子どもを守るためには、以下のことが必要であると考えます。
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1)万が一の重症化に対応できるように、小児の医療を整備しておくこと。
2)ワクチンが接種できない世代の子ども達を護るために、周囲の12歳以上が確実にワクチンを接種し、家庭内に感染をもちこまないこと。
3)感染が判明したら、患者さんに、迅速に隔離施設に入ったいただくこと。
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2)のワクチンに関しては、3回目接種も当然重要になってきます。12歳未満児の保護者や同居人は当然のこと、エッセンシャルワーカーと言われる幼稚園、保育園職員、学校教師なども優先的に接種を行う必要があるでしょう。
高橋 謙造
帝京大学大学院公衆衛生学研究科 教授