コロナ予防策が招いた大問題「違う病気で死亡者数が増加する」

「いのちを守る STAY HOME週間」の今。外出自粛がとにかく叫ばれているものの、コロナ感染予防策がもたらす「思わぬ弊害」を知っているだろうか。帝京大学大学院公衆衛生学研究科の教授・高橋謙造氏が解説する。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

コロナ感染予防策でおざなりになる「ワクチン接種」

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が世界中の人々の予防接種に影響をもたらしている。

 

ヒト同士の物理的距離をあけることが感染予防につながるため、子どもへの接種を延期したり(途上国での予防接種キャンペーンの延期も含む)、物流の停滞でワクチンの運搬が困難な国も出始めている。ユニセフは、麻しんワクチン接種を逃す子どもが世界37ヵ国で1億1,700万人と推計している(2020年4月14日The Measles & Rubella Initiative)。

 

特にアフガニスタン、コンゴ共和国、ソマリア、フィリピン、シリア、南スーダンでは、麻しん、コレラ、ポリオ対策にさらにCOVID-19の感染拡大阻止が加わり、何に重きを置くか苦渋の選択が迫られている。予防接種に関する戦略諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization:SAGE)や世界ポリオ根絶推進活動(Global Polio Eradication Initiative:GPEI)は、予防接種キャンペーンを一時中止・延期する方針を表明した。

 

現在でも、アフガニスタンとパキスタンでは、野生株のポリオウイルスが急増している。アフリカでは、経口ポリオ生ワクチン接種児からのワクチンウイルス伝播による感染拡大が問題になっている。

 

いずれの地域とも、ワクチンの中断により、麻痺性ポリオが増加する。やがては、近隣のポリオ排除国へと流出することが危惧されているのだ。

 

麻しんは、近年、欧州や米国でも大流行が起きている。エボラウイルス感染症が流行したコンゴ共和国では、ワクチン接種率の低下により、エボラウイルス感染症をはるかに凌ぐ数の麻しん患者が発生した。今後、全世界でワクチン接種の停滞により、麻しんの大流行が起きることが懸念されている。

 

ポリオ、麻しんに限らず、今後は世界規模で、ワクチンで予防可能な感染症(Vaccine Preventable Disease: VPD)が再流行し、患者と死亡者が増加すると予想される。これはCOVID-19の流行が収まったあとも遷延すると考えられる。

 

コロナ対策の裏で…
コロナ対策の裏で…

コロナ感染を恐れ乳幼児健診を延期する事態が…

ワクチン接種率の低下は、日本でもすでに起きている。乳幼児健診は、各地で中止や延期が相次ぎ、予防接種の受診も減少している。保護者が子を思う気持ちを考えれば、やむを得ないことだ。ただし、このままでは、子どものCOVID-19罹患や死亡より、VPDの罹患や死亡増加さえ懸念される。

 

日本小児科学会などではFAQを公開し、予防接種を延期しないように、と呼びかけている。通常、定期接種には対象年齢が定められており、対象年齢以外では公費接種が受けられず、任意接種の扱いとなる。厚労省は、COVID-19により接種ができなかった場合、対象年齢の縛りを外す措置を講じた(厚生労働省健康局健康課2020年3月19日https://www.mhlw.go.jp/content/000612054.pdf)。

 

このような状況下では、さまざまな紛れ込み症状が起きることが懸念される。ワクチン接種が安全に実施されるためには、国の制度整備はもとより、各ワクチン接種医療機関でも、ワクチン接種に関する知識のアップデートや、副反応疑い症状について相談を受けた際、きちんと対応できるようにしておかねばならない。

 

これまで、予防接種についての研修は、学会や医師会で実施し、方法や知識を習得できた。しかし、COVID-19の流行により、地区の医師会ごとの研修会は延期や中止が発表されている。通院が困難な状況でオンライン診療での初診が始まったように、代替手段が提供されるべきだ。

 

 

米国では、e-learning でのワクチン教育が実施されている。CDC(Center for Disease Control and prevention)のVFCプログラム(Vaccine For Children)では、VFCプロバイダーになる条件に、基礎知識をe-learningで受講し、基準をすべてクリアしていることが定められており、抜き打ちの医療機関訪問で管理や保管方法もチェックされる(これらは更新制であるため、毎年実施される)。VFCプロバイダーに認定されると国から無償でワクチンが提供され、子どもたちは無料で接種できる仕組みだ。

 

英国では、様々な専門的背景をもつ医療関係者が予防接種を行えるようになっている。安全かつ効果的に医療を実施し、保護者等の質問に自信をもって応じるため、誰もがアクセスできるe-learningプログラムがある。初心者にはすべてを、経験者は関連項目だけ提供し、証明書が発行される。これは予防接種だけではなく、認知症や高血圧、メンタルヘルスなど豊富な種類があり、いつでも学べる環境が整備されている。

 

日本でも、予防接種について、医療者がオンラインで学ぶ環境が整備する必要がある。COVID-19の流行下においてVPD事例を増加させないために、接種者を増加させていくか、そのための学びと議論を拡げていく必要がある。それが医療者たちの知識をupdateし、安全な予防接種を推進し、子どもたちの生命を守ることにもつながるのだ。

 

 

高橋 謙造

帝京大学大学院公衆衛生学研究科 教授

 

帝京大学大学院公衆衛生学研究科 教授 

東京大学医学部医学科卒(1994年)。専門は、国際地域保健、国際母子保健、感染症学。

医学生時代に、タイの地域保健住民ボランティアシステムに感銘して国際保健、公衆衛生を志し、恩師のアドバイスにより小児科医師となる。離島医療(鹿児島県徳之島)、都市型の小児救急等を経験したあと、麻疹の大流行を経験して博士号取得に結びつける。順天堂大学、厚労省国際課、国立国際医療研究センター、横浜市立大学等を経て、2014年4月より現職。現場をみて考える、子どもをみて考える、がモットー。

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状

本連載は、医療ガバナンス学会のメールマガジンを転載したものです。記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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