コロナ禍…「医療的ケア児」の報道がほとんどないのは何故か?

日本においてほとんど報道されていない「新型コロナウイルス流行拡大による医療的ケア児への影響」を、帝京大学大学院公衆衛生学研究科専門職学位課程2年野中祐希氏が語った。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

「医療的ケア児(医ケア児)」と呼ばれる子どもたち

人工呼吸器の管理や吸引、経管栄養などの医療的ケアを日常的に必要とする「医療的ケア児(医ケア児)」と呼ばれる子どもたちがいる。

 

医療技術の進歩に伴い医ケア児の数は増加している。しかし、医ケア児が地域で暮らしていくための支援体制は十分に整備されていない。それどころか、各自治体は地域に暮らす医ケア児の数や現状を正確に把握できないでいる。

 

そのため医ケア児とその家族が、必要な支援を受けられず大きな負担を抱えて生活していることが問題となっている。

 

医ケア児に関する報道を目にすることはほとんどない…
医ケア児に関する報道を目にすることはほとんどない…

 

このような問題を抱えた中で今回、COVID-19(新型コロナウィルス)の世界的流行が発生した。新型コロナウィルスの流行は私たちの生活に大きな影響を与えている。連日マスメディアでは、マスクやアルコール消毒液などの衛生用品が品薄になっている状況や有名芸能人の感染・死去など様々なことが報道されている。

 

しかし、医ケア児に関する報道を目にすることはほとんどない。新型コロナウィルスの流行は医ケア児にどのような影響を与えたのだろうか? 

新型コロナウィルスによる医療的ケア児への影響は?

そこで、5大新聞社(朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞)の記事を使って、新型コロナウィルスによる医ケア児への影響を調査することとした。

 

各社のホームページから新型コロナウィルスによる医療的ケア児への影響に関する記事を検索した。その結果、朝日新聞で5本、読売新聞で2本、毎日新聞で7本、日本経済新聞で2本、産経新聞で13本、合計29本の記事がヒットした(※5月11日時点)。

 

一部有料会員向けのため内容を確認できないものもあったが、以下の4つの影響が確認された。

 

1.衛生用品などの物品の不足

 

医ケア児は吸引カテーテルの消毒など、衛生用品を必要とする場面が多い。例えば、吸引を必要とする子どもでは平均15回/日吸引を実施しており、手指消毒や物品の消毒のためにエタノール500mlボトルを2〜3本/月を使用していると記事には書かれている。そのため、衛生用品が手に入らない現状は医ケア児にとっては死活問題である。

 

この問題に対し厚生労働省や各自治体は、医ケア児のいる家庭への衛生用品の配布を行ったが、物品を必要とするすべての家庭に行き渡るのは難しいと考える。

 

2.休校などによる保護者の負担

 

全国一斉休校により子どもたちに大きな影響が出ているが、それは医ケア児も例外ではない。医ケア児を預ける場所がなくなると、家族は、1日中医ケア児のケアに注意を払わなければならなくなり、心身ともに負担が一気に増加する。また、医ケア児の他に兄弟がいる場合は、兄弟の世話もする必要があるため負担はさらに重くなる。

 

3.感染への不安

 

医ケア児は様々な疾患を抱えている子が多い。そのため家族は「新型コロナウィルスに感染してしまったら、子どもの生命が心配」という強い危機感と不安を抱えている。また医ケア児の世話は、ほとんどが母親によって行われており、主介護者である自分が感染してしまったら、子どもの世話をする人がいなくなってしまうという不安も抱えている。

 

感染への強い不安から訪問看護などのサービスを断ってしまい、家族だけでケアを継続しているケースも出てきている。そうすると家族のケア負担が増えるだけではなく、外部(社会)とのつながりが断たれることで、家族に問題が起きたときに、問題に気づいて支援することが難しくなってしまう。

 

4.医ケア児を受け入れている施設の負担

 

休校などの影響で医ケア児の受け入れを継続している一部の事業所に受け入れの依頼が殺到してしまい、現場に大きな負担がかかっている。医ケア児のケアには人手が必要であり、また現在は感染症対策にいつも以上に注意を払う必要もあるため、現場で働くスタッフの精神的・肉体的な負担が大きくなっている。

 

新型コロナウィルス感染流行を受け、医ケア児と家族はいつにもまして厳しい状況に置かれている。NPO法人フローレンスなどが様々な支援策を打ち出し実施しているが、政府・自治体も医ケア児と家族に対して早急に支援策をまとめ実施する必要がある。このままの状態が続けば、医ケア児と家族が限界を迎えてしまう。

 

また、医ケア児が抱えている問題について積極的に声を上げる必要もある。今回の調査で見つけた記事の本数は、ある有名芸能人1人の新型コロナウィルス感染による死亡に関連した記事の本数(79本) の半分以下しかなかった。

 

今後、医ケア児への支援体制の整備を進めるためにも、医ケア児の存在をアピールして社会全体で医ケア児の問題を考えていけるようにする必要がある。

 

 

帝京大学大学院 公衆衛生学研究科 専門職学位課程2年

野中 祐希

帝京大学大学院公衆衛生学研究科 専門職学位課程 

2015年3月、順天堂大学医療看護学部卒業。大学卒業後3年間、国立成育医療研究センターにて看護師として勤務。

医療的ケア児の家族が、在宅療養に悩み、疲弊している姿や精神に不調をきたし、家族関係が壊れてしまう様子を看て、「医療的ケア児と家族が地域で生活できるような仕組みが十分ではないのではないか? どのような仕組みがあれば児と家族が幸せに生活できるようになるのだろうか?」と疑問に思い、2019年に帝京SPHに進学・研究を始める。

現在は、訪問看護師、日本看護協会職員として働きながら、高橋謙造教授のもとでChange Agentとなるための修行中。

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状

本連載は、医療ガバナンス学会のメールマガジンを転載したものです。記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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