ケアレスミスが「無効」に直結する自筆証書遺言
遺言には自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。今回は、自筆証書遺言の特徴や、メリット・デメリットについて見ていきましょう。
自筆証書遺言とは、その名の通り遺言者が自ら書く遺言です。自筆証書遺言を作成するにあたっては、次のような約束事があります。
①紙に自筆で書く
自筆証書遺言は、紙に遺言の全文を自筆で書かなければなりません。あくまでも「自筆」が条件なので、ワープロやパソコンなどによるものや、テープなど録音した音声によるものは、遺言とは認められません。
全文を自筆で書くというのは、なかなか大変なことです。特に高齢者には負担が大きいのではないでしょうか。書いた内容に誤りがあって訂正した場合には、訂正した箇所に押印をしなければなりません。
複数の不動産を所有している場合、それぞれをどの相続人に相続させるか指定することがあります。そのような場合、遺言書本体とは別に、別紙目録にすることがあります。
このとき、ついうっかりしてしまいがちなのが、パソコンやワープロで作成してしまうことです。自筆証書遺言では、別紙目録も必ず自筆でなければならないため、このようなことをすると、せっかく作成したものが無効になってしまいます。
つまり、自筆証書遺言は遺言の書き方や法律に詳しくない人が自力で作成すると、内容によっては、遺言として不備なものになってしまい、遺言として無効になったり、相続人たちの争いの種になったりするリスクが伴うものなのです。
②日付を入れ、署名をする
自筆証書遺言を書き終えたら、最後に日付を入れて署名をします。署名はともかくとして、日付を入れ忘れたために、遺言が無効となることは少なくありません。最後に必ずチェックして、日付が入っているかどうかを確認するようにしましょう。
裁判所の「検認」に費用と時間がかかる場合も
③発見した人が家庭裁判所に持参する
自筆証書遺言は、民法で、発見した人が家庭裁判所に持参して、遺言書を検認するための手続きをしなければならないものとされています。開封は、家庭裁判所の検認手続き時に行うものとされており、検認手続きを経ずに開封すると5万円以下の過料が科せられます。
しかし、遺言書を発見してしまったら、つい中身を見たくなるというのが人情でしょう。そして、そこに書かれている内容が、自分にとって不利なものであれば、内容を改ざんしたり、場合によっては隠匿、破棄したりしたくなるものなのではないでしょうか。実際、自筆証書遺言をめぐるトラブルの多くは、「改ざんの疑い」に起因しています。
なお、生前、本人が大切にしすぎるあまり、目につかないところに隠して、遺族が見つけられないこともあり得ます。
④家庭裁判所での検認が必要
自筆証書遺言の検認の申し立ては、遺言者の最終住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。例えば、遺言者の最終住所地が札幌市中央区だった場合、仮に相続人の多くが東京都区内に住んでいたとしても、札幌市中央区の遺言書の最終住所地を管轄する家庭裁判所で申し立てを行わなければならないのです。
つまり、場合によっては検認にかかる費用と時間が、バカにならないほどかかるということです。
また、その際、「これで法定相続人全員で、他には存在しない」ということを証明できる戸籍謄本と、法定相続人全員の住所を添えなければなりません。なぜかというと、法定相続人は遺言書検認の場に立ち会う権利があるため、家庭裁判所が法定相続人全員に、遺言書検認の通知をすることになっているからです。
相続人の数が多かったり、代襲相続があったりすると、住所を調べる手間だけでもかなりなものになることを、覚悟しなくてはなりません。申し立てを済ませてから、検認までの期間は、早い場合で2週間程度ですが、場合によっては1カ月以上先になることもあります。
現在、遺言の書き方のノウハウ本などが出回っていて、それを参考にして書く人が増えてきています。手軽に取り組めるというのは、自筆証書遺言のメリットではありますが、その一方で、遺言が無効になったり、検認の手間がかかったりといったデメリットがあることを、理解しておいた方がいいでしょう。