リタイア準備の第一歩として「理想の老後」を書き出す
前回までで、高齢になると財産管理がより重要となるにも拘らず、現実には認知能力が低下するためにそれが困難になり、場合によっては大きな問題を引き起こすリスクがあること、そして、そのリスクを回避するために任意後見制度という制度があることについてお話ししてきました。
ここまでをお読みいただいて、「今から老後の準備を始めても早すぎることはない」と、認識を新たにした方も多いのではないでしょうか。
そう思った方は、老後の生活設計の第一段階として、自分の理想とする老後について、思いつくことを全てノートに書き出してみてほしいと思います。私はそのノートを「リビングウィルノート(生きる意思を記したノート)」と名付けたいと思います。
「リビングウィル」という言葉は、最近、しばしば見受けられるようになってきました。多くの場合、尊厳死に関連して使われているようです。
例えば、自力呼吸ができなくなったときに人工呼吸器をつけるかつけないか、あるいは口から食べ物が食べられなくなったときに、胃ろう(胃に直接栄養を流し込む処置)をするかしないかといったことについて、あらかじめ自分の意思表示をするという意味で使うことが多いようです。
どんな状態になっても自分らしく生きるために…
今回、本連載を執筆するにあたり、私はこの「リビングウィル」という言葉を、よりポジティブな意味で使いたいと考えました。
数年前、「エンディングノート」という、自分の死亡に関して、事後処理の希望を記すノートがヒットしました。エンディングノートは、高齢者の間ですっかり定着した感があるので、その存在を知っている人はもちろん、「私も書いた」という人も少なくないことでしょう。
エンディングノートは、人が昔から最も恐れ、最も忌み嫌っていた「死」に対する意識を、大きく変える役割を果たしました。エンディングノートの登場によって、死は、厭うべき人生の終着点ではなく、自分に与えられた生を終えるために、正面から見据え、意思を持って向かっていくべきものと感じるようになった人は、少なくないでしょう。
私が提唱するリビングウィルノートも、認知症を発症する可能性の高まる、人生の終盤の時期を、ただ忌まわしいものとして遠ざけたり、見て見ぬふりをしたりするのではなく、どんな状態になっても自分らしく生きようという意思を持って、しっかりと受け止めるためのものです。