子のない夫婦、事業承継…「争続の種」は至る所に
基本的に、遺言書はどのような家庭でも必要なものだ、と筆者は考えています。一般的に、よほど財産が多くない限り遺言書は必要ないと考えられているようですが、実は財産がさほど多くない家に限って、誰も予想しなかった遺産分割をめぐるトラブルが起こりやすいように見受けられます。
これまで遺産分割トラブルの実例をご紹介しましたが、他にも次のような事情のある人は、公正証書遺言を作ることを積極的に検討してください。
①子どものいない夫婦
子どものいない夫婦で夫(妻も同様)が先に亡くなった場合の法定相続分は、夫の両親も亡くなっていると妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1となります。
しかし、よほど生前に世話になっていたり、仲が良くて生涯を通して交流があったりしていない限り、兄弟に4分の1を相続させるよりも、長年連れ添って苦楽を共にしてきた妻に、全財産を相続させたいと思う人が多いのではないでしょうか。
そのような場合には、遺言が必要になります。兄弟には遺留分がないので、遺言さえしておけば、全財産を妻に相続させることができます。妻には「遺言で全財産を君に相続させるよう書いたから、兄弟が何を言ってきても気にしないように」と話しておくとさらに安心です。
②亡くなった子どもの配偶者に財産を分けてやりたいとき
例えば、長男がすでに亡くなっているけれども、未亡人となった長男の嫁がとてもよく世話をしてくれた、ということが往々にしてあるものです。
あまり親身になってくれなかった実の子よりも、元々は他人ではあるけれども世話になった嫁に多くの財産を遺してあげたいと考えるのであれば、必ず遺言にしておくようにしてください。嫁は法定相続人にはならないので、遺言書で嫁に遺贈する意思表示をしておくことが必要です。
③特定の子に事業を継がせたい場合
個人で事業を経営したり農業をしたりしている場合、複数の相続人に財産を分割してしまうと、事業継続のための資金がなくなり、継続できなくなってしまうことがあります。もし、子どものうちの一人に事業や農業の後を継いでほしいと考え、本人にもその意思があるのであれば、その旨の遺言をしておくようにしましょう。
④相続財産の多くが不動産の場合
不動産は分割しにくい財産です。相続財産のうち不動産の割合が多い場合は、相続人ごとに相続財産を指定しておくようにしましょう。なお、もらった相手が困惑するような不動産がある場合は、自分が元気なうちに処分することをお勧めします。
財産がさほど多くない家でも相続トラブルは起こる
他にも、
●自分に対して特に貢献してくれた子どもに多くの財産を相続させたい
●身体障害を持つ子に多くの財産を遺してやりたい
など、家庭の事情によっていろいろな要望があることでしょう。自分亡き後の大切な人の生活を守るためにも、公正証書遺言で相続人ごとの相続財産を指定しておくことは、非常に重要なのではないでしょうか。