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国家戦略特区での成功を無視する政治
国家戦略特区は、規制改革の効果や影響を限定された地域で実験してみるという意味もあります。うまくいけば、全国に広げようという仕組みである「はず」でした。ところが、養父市の事例は、成功したにも関わらず全国展開に待ったがかかってしまったのです。
政治家であれ、役人であれ、これまでの制度によって得ている既得権があります。利益を伴う権利ですから、それを持つ層に属する人たちは、あまり養父市のような制度は進めたくないのです。そこで「問題はなかったけれども、更なるニーズの調査が必要」という扱いとして、養父市の国家戦略特区の施策は2年延長されることになりました。
養父市のように地域産業としての農業が衰退していく問題を抱える地域はたくさんあります。養父市のケースではすでにニーズもそれに対する効果もあったことが分かっているのに、全国に広めるのはまだ早いとして、どうもうやむやにされてしまいそうだというのが現状です。
農業に限らず、あらゆる業種、組織でも同じことですが、物事が進まないようにするために「まだ早い」とするのは、よく使われる手法です。「全面否定はしないけれども」というクッションを置いて、手続きの一部にちょっと間違いがありますねとか、不十分ですねといった話にすることで、物事を後退させたり進めさせなかったりします。こういう手法をサボタージュと言います。
これは国家同士でも同じです。アメリカの情報機関のCIAが作成したマニュアルには、相手国の色々な機関をサボタージュさせ、物事が進まないようにさせて政府機能を麻痺させるための方法もあります。
養父市の国家戦略特区施策に対する政府と与党の扱いも、同じです。問題がないのに、話が進まないのです。日本企業あるある、でもあります。
それだけ、今のままがよいという人たちも多いのです。一旦減らした土地改良予算も元通りに増え、税金で工事をすれば地域にどんどんお金が落ちます。ただ、それで農業が盛んになるということではありません。日本の将来を考えていくと、こうしたことも変えていかなければならないポイントのひとつです。「日本の農業を守れ」という建前で、実質的には農業を潰しているのと同じことだからです。
物事は、守りに入ると後手に回ります。日本の市場は国際的にも開かれているので、どんどん新しいもの、良いものを生み出して攻めの商売をしてくる人たちが大勢います。すると今度は、「貿易を制限してしまえ」と更なる守りに入ろうとする人も出てくるのですが、待っているのはジリ貧です。苦しい戦いでしのいだ挙句、外堀を埋め立てられて最後は籠城もできなくなった大坂夏の陣の大坂城のようなものです。
だから、本当に守るのであれば、闘って勝っていかなければいけません。それが厳しい人間社会、国際社会の掟です。
江戸時代末期に欧米列強が押し寄せて来たときの日本は、明治維新で新しい政府をつくり国をまとめ、殖産興業により死に物狂いで国力を高めて国際社会と真剣に向き合いました。現在と比べれば貧しかったけれども、当時の日本は勝ちにいきました。
第二次世界大戦で負けて、一旦は生産力の多くを失いましたが、日本は這い上がって世界第二位の経済大国となりました。すっかり国が豊かになって、補助金や政府の支援もありここまでもってきた。外堀が埋まっていくスピードを遅くできていたので、同じようにやっていけば日本の産業を守ることができるとみんなが思ってやってきました。
しかし、現実を見れば徐々に外堀は埋まっているのです。そろそろ、みんな目を覚まさなければいけないときです。競争戦略論の大家であるマイケル・E・ポーターは著書『日本の競争戦略』の中で日本の産業保護政策は企業の成長を阻害したと喝破しています。