介護によって歩行能力が上がり、再び「大好きな野球観戦」を達成
中村さん(70代男性・仮名)は、高校野球の大のファンで、必ず夏の甲子園を観戦しに行っていました。
しかし、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)を患(わずら)ってしまい、それが原因で、甲子園にも行けなくなり、さらにどんどんと身体が弱っていき、歩くのも苦労するようになっていました。
リハビリをして、できるだけ身の回りのことを自分でやりたい、何より「甲子園でもう一度、高校野球を観戦したい」ということで、私どものデイサービスにやってきてリハビリを受けるようになりました。
スタスタと歩けるようにはならないのですが、座位、立位でのバランストレーニングと身体機能の各部位の筋力強化と柔軟性の向上を可能な限り図るなどして歩行能力を上げ、最終的には甲子園にまた高校野球を観に行くことができたのです。
本人もうれしそうでしたが、何よりも本人の思いを成し遂げることができたことに対して笑顔で話すご家族の姿に、こちらも胸をあつくしたものです。
もし、脊柱管狭窄症にかかった段階で「脊柱管狭窄症なんだから、無理をさせないほうがいい」と、家にじっと閉じこもる介護を選択したら、甲子園でもう一度高校野球を観戦するという素敵な思い出を得ることなく、最悪寝たきりになっていた可能性もありました。
このように介護の支援の仕方で、人生の最後は大きく変わってきます。
介護に対してマイナスイメージを抱いたまま、むやみやたらに避けるのではなく、人生のエンディングなのですから、家族も含め、介護の支援について前向きに情報を得て、向き合ってほしいのです。
「介護支援を受けるべきサイン」をセルフチェック
では、介護による支援を考えるとき、言い換えれば、人生のエンディングについて考えるとき、最初にやらなくてはならないことはなんでしょうか。
それは、自分もしくは家族の今の状態を認識し、受け入れることです。これを「受容」といいます。また、老いと向きあうといってもいいでしょう。
筋肉量は、20代を100とすると、80代では、30%も減るといわれています。しかし、徐々に落ちていくので、自分自身ではなかなか気づいていないこともよくありますし、「自分の衰えを認めたくない」「心配をかけたくない」という深層意識から、強がったり、自分で自分をごまかしたり、たとえ身体機能の衰えから、生活に不便さを感じていても、家族に訴えなかったりするケースもよく見受けられます。
さらに、自分たちの生活が忙しかったり、自分の親の老いを受け入れられなかったりして、「知らせがないのは元気な証拠」とばかりに、親の体調から目をそらし続けた結果、取り返しのつかない状況に陥ってしまった人を何人も知っています。
高齢者は、ちょっとした病気やケガが原因による1週間の入院で、ベッドから立ち上がれなくなります。しばらく会わない間に、特に一人暮らしの高齢者は、認知機能が低下する危険性があります。
絶対に老いない人などいませんし、早めに老いを知ることにより、対策がしっかりと取れます。まずは自分や家族の身体をチェックしてください(図表1、2)。それぞれのカテゴリーにどれか1つずつチェックがつくようでしたら、支援を受ける必要がある状態の可能性が高いです。
すべてのカテゴリーでなくとも、どれか1つでもチェックがついたとしたら、要注意なので、自分や家族の状態を小まめに気にするようにしましょう。
また、このチェックですが、「介護による支援が必要かどうかを調べるものだからやってみよう」ともちかけると、両親が介護に対して偏見を持っている場合は、嫌がられる可能性もあります。
「身体の健康チェックテストがあるからみんなでやりましょう」と少しでもポジティブに聞こえるように誘ってみてはいかがでしょう。
そして、もしチェックでひっかかったとしても深刻にならず、逆に早く気がつけたことで、改善しやすくなったと受け取り、じゃあ元気で長生きするためには、どうすればいいのだろう、どのような支援を受ければいいのだろうと前向きに考えることが何より大切です。
神戸 利文
リタポンテ 代表取締役
上村 理絵
リタポンテ 執行役員兼事業部長、理学療法士
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