(※写真はイメージです/PIXTA)

賃借人が法人である場合、契約期間中にM&A等により借主の経営陣や株主構成が大きく変わることがあります。その際、貸主への事前承諾がない場合には契約解除が認められるのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際の裁判例をもとに解説します。※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

裁判所は「信頼関係破壊」による契約解除を認めた

この事案では、裁判所は資本構成と役員構成の変更について契約に違反し、なおかつ、信頼関係を破壊しない特段の事情も存在しない、と認定して貸主側からの契約解除の主張を認めました。

 

借主の資本構成・役員構成の変更が、信頼関係を破壊するか否かという判断は個別具体的な判断となるため、一つの参考となる事例です。

 

【判旨:東京地方裁判所平成5年1月26日判決】

 

1.《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができる。

 

(一) 被告の元代表取締役であり被告の実質的なオーナー経営者であつた訴外後藤は平成二年当時満六三歳、その妻和子は満六二歳で、昭和六〇年ころから和子が腰痛のため営業に従事できなかつたところから、訴外後藤一人で被告の営む居酒屋「七福」を切り盛りしていく自信を喪失し、親族等には適当な跡継を見出せず、

 

また、店内の内装が老朽化しその改装費六五〇〇万円余りを捻出するあてもなかつたため、その去就につき知人に相談していたところ、不動産管理等を業とする河野孝子が株を持たせてくれればその費用は出捐するとの意向を有しているとのことであつたところから交渉を重ねた結果、

 

とりあえず発行済み株式の五五パーセントを代金五五〇〇万円で譲渡することとし、同年一〇月末に三〇〇〇万円を同年一一月に二五〇〇万円をそれぞれ受領した。なお、右譲渡に際して被告の発行済み株式数を同月六日付で二万株に増資している。

 

(二) 訴外後藤としては、右のような事情から、被告の全株式を譲渡してもよいと考えていたが、河野が居酒屋を経営した経験がないことなどを考慮してとりあえず譲渡する株式割合を右のとおりとしたもので、七福の営業は大山勝弘が実質的に取り仕切るようになり、訴外後藤においても同店従業員に対し以後大山に従つて仕事をするよう発言して引継をなしほとんど七福に出社しなくなつた。

 

(三) 右七福での営業形態の変更を知つた原告では事実関係の調査を始め、平成二年一一月一六日付で役員の全面的な交代が行われていることや株主の変更、訴外後藤とその親族の持株割合が株主名簿上も過半数を下回つていることを認識するに至り、従前の被告と同日以降の被告との実質的同一性が喪失しているとの判断に至つた。

 

(四) そこで、原告では同年一二月二一日、訴外後藤に面接し、被告において行われた役員の変更等が承認事項であることを説明して必要書類の提示を求め同月下旬にその提出を受けたが、その際訴外後藤は河野につき遠縁にあたるとの説明をなしていた。しかしながら、原告による調査の結果両名の間に縁戚関係のないことが判明し、訴外後藤の提出した書類の内容等を踏まえ役員等の変更を認めないこととした。

 

2.右事実及び争いのない事実等によれば、訴外後藤による本件株式譲渡の動機が同人の年齢や体力的な事情等によるものであることは被告主張のとおりであることは認められるが、

 

被告は従前訴外後藤及びその家族を中心とした同族会社であり、このような会社にあつては株式会社として法人格は同一であつてもその株主や役員の構成によつてその会社経営の方針・内容が変動することは容易に予測しうるところ、従前の被告と平成二年一一月一六日以降の被告との実質的同一性が喪失しているとの判断にいたつたこと、

 

本件賃貸借契約は最低基準賃料の定めがあるとはいえ歩合性賃料を採用しており、居酒屋という職種及びその営業形態をも考慮すると、経営者の変動によつて営業収入の変動が生ずると予測しうること、

 

不動産業をしていた河野が株式譲受人として関与していながら契約上の義務である承認を求める手続きを直ちにとらず、しかも調査に際し虚偽事実が述べられていたことなどの右認定の諸事情を総合勘案すると、原告が承認義務等の約定に定める承認をしなかつたことが不相当であるとは認められず、また、被告において行つた組織変更につき信頼関係を破壊しない特段の事情の存在を認めることはできないものといわざるをえない。

 

※この記事は2020年7月14日時点の情報に基づいて書かれています。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

 

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