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いいものには背景があり、作り手の思想がある
ものの背景を知ることには意味がある。
まず、どんな材料で作られているのか。それから誰が作っているのか。なにより大切なのは、思いを込めて作られている部分はどこなのか。
僕が北欧の家具に惹かれるのは、ものの背景が明確であるからなのだ。それはアアルトの生きた時代から現在に至るまで変わらないと感じている。
スウェーデンの建築家、ニルス・ストリングが考案した壁掛け収納システムは、1949年にデザインされて以来、70年以上経った今でも人々に愛されている。シェルフの幅は2種類とシンプルで、さまざまな色や素材を組み合わせて、必要な数だけつなげたり重ねたりすることができる。
このシステムはスウェーデン国内はもとより、世界中に広がった。ストリング氏なきあとは後継者二人が経営を引き継いでいる。僕が彼らに会ったのは、10年ほど前のことだった。ストリング氏が生み出したピュアな原型を、今の暮らしに合うよう、アップデートしているという。僕らはすっかり意気投合して、親しい付き合いを重ねている。
実は日本の市場において、シェルフは難しいインテリアとされている。なぜならシェルフをかける時、壁に穴をあけなければならないからだ。日本では壁に穴をあけるのはあまり良しとされていないが、そういった事情を飛び越えて、ストリングのシェルフはすばらしいと思う。そこには作り手の思想が感じられる。時間をかけて伝えていくうちに、日本でもストリングのファンが増えていった。
なにもない壁にこのシェルフをかけると、色のアクセントができて、空間が生き生きとしてくる。なによりユニークなのは、そこに飾るものによって、使い手の個性が現れることだ。単なる「見せる収納」を超えて、使い手の人生をまるごと肯定するような豊かさが感じられる。
ストーリーのあるものを毎日見て、日々使うと、それは暮らしの豊かさにつながっていく。そのことを、ストリングのシェルフはそっと教えてくれるのだ。
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