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天井の明るい光は、暮らしの奥行きを消し去ってしまう
リビングルームには、据え付けの照明を一切入れていない。ダウンライトすら設置していない。ダイニングのスペースにひとつだけペンダントライトをさげているけど、僕はこれさえなくてもいいかもしれない、と思っている。
かわりに僕はいつも、手元の灯りを使うようにしている。この家の天井は平らで、間接照明が反射するようになっている。静かな夜、手元の灯りが天井にふわっと広がるのを見ていると心が穏やかになっていく。
「手元の灯りだけで暮らすなんて」と驚かれることも多い。今でこそ珍しいかもしれないけど、昔は行灯のともしびで暮らしていたのだし、ヨーロッパに行っても、テーブルの上に置いたキャンドルの灯りで食事をするのは珍しいことではない。
天井は、反射光だけ映すほうが空間的に落ち着きが生まれる。しかし日本では、圧倒的に天井照明が多い。「それでは暗い」とこぼす人が多いからだそうだ。
夜、マンションを見上げると、どこの家の窓からも、天井照明が輝いている。すべてがあけっぴろげで、昼間と同じように明るい。そのほうが、新聞を読みやすいのかもしれない。料理が明るく見えるのかもしれない。子どもたちが夜、勉強をするのに困らないのかもしれない。
だがそれは、美しく暮らす境地からは遠ざかってしまう。天井からの光はすべてを明るく照らして、部屋の凹凸をすべて消し去ってしまうのだ。のっぺりとした食卓、のっぺりとした家族の顔、のっぺりとした幸福感。そこに奥行きは感じられない。
僕らはもっと陰影を味わったほうがいい。昔のように、手元の灯りはひとつだけにする。暗くすることで目が休まり、気分が落ち着く。家は、どこよりもくつろぐ場所でありたい。
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