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僧帽弁閉鎖不全症の段階では内服治療で経過を観察
僧帽弁閉鎖不全症の治療方法は、病気の進行状況や犬の年齢、全身状況などを総合的にみて判断します。
心雑音はあるものの、目立った症状はなく、心臓の拡大化などもみられないごく初期の段階であれば、そのまま何もせずに様子をみることもあります。
症状が出始めて最初の頃であれば、投薬による内服治療を検討します。例えば、超音波検査やレントゲン検査で心臓の拡大化は確認できるものの心不全などの徴候はないという段階では、主に内服治療が適応になります。
内服治療で用いられるのは、血管拡張薬や利尿剤、強心薬などです。血管拡張薬は、心臓病の治療に多く使われる薬です。血管を広げることで血圧を下げる働きをします。血圧が上がり過ぎると心臓に負担がかかってしまうため、血圧を下げる効果によって心臓の負担を減らすことができます。
利尿剤は、尿の排出を促進するための薬です。尿を排出させて体の中の過剰な血液量を減らし、肺に水が溜まる肺水腫を防ぐことができます。強心薬は心臓の働きをサポートするための薬です。心臓の筋肉に働きかけることで働きをサポートし、心不全などを防ぐ目的で使用します。このほか咳がひどければ、必要に応じて気管支拡張剤や抗生物質などを投与することもあります。
これらの服用によって心臓の拡大化が抑制されたり、少しでも小さくなるなど総合的にみて症状が安定していれば、そのまま内服薬で様子をみることもあります。
完治を目指すなら、人工心肺装置を使った手術が有効
一方で、この病気を完全に治そうとすれば手術が有効な選択になります。以前は僧帽弁閉鎖不全症といえば、薬で症状を緩和したり、少しでも進行を遅くするのが主な治療法でした。しかし今では動物医療の技術が進歩し、手術で薬を飲まなくてよいレベルにすることが可能になってきています。
僧帽弁閉鎖不全症の手術は「僧帽弁形成術」と呼ばれるものが一般的です。この手術は、簡単にいうと広がってしまった僧帽弁を糸で縫い縮めたり、切れてしまった腱索と呼ばれる組織を再建する内容になっています。
具体的な流れとしては、まず人工心肺装置につないでいきます。人工心肺装置とは、心臓の機能と肺の機能を人工的に代わって行うための装置です。心臓は絶えず拍動し、新鮮な血液と古い血液が循環しています。しかし心臓が動いていると、手術を行うことができません。そこで、一度、心臓の働きを止めて安全に手術をするために人工心肺装置が使われます。
手術では初めに首の太い血管を使って人工心肺装置に接続します。
次に胸を開いていき、心臓を保護するための心筋保護液と呼ばれる薬を血管に入れていきます。保護液を入れたら、心臓を停止させます。
心臓を停止させたら、心臓を開けて僧帽弁の様子を確認し、僧帽弁が伸びきってしまっているところがあればそれを縫い縮めます。また、切れてしまった腱索あるいは切れそうな腱索があれば、特殊な糸を使って再建します。
手術はトータルで5、6時間かかります。万が一、出血などが起こった場合は時間もさらに長くかかります。
内科的な治療を継続するか、外科手術に踏み切るかは飼い主が大きく悩むところです。それぞれのメリット、デメリットを考えたうえで、主治医とよく相談することが重要です。
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