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ある相続人が故人から生前に贈与を受けていた場合や、遺贈や死因贈与を受けた場合は、遺産相続で特別受益を考慮しなければなりません。特別受益があった相続人は遺産を前もってもらっていたことにして、遺産相続ではその人の取り分を減らすように調整します。このようにして、相続人どうしで公平に遺産を分けられるようにします。詳しくみていきましょう。

「特別受益」がある場合の遺産分割の方法

ある特定の相続人に特別受益がある場合は、相続人どうしで公平に遺産を分けられるように相続分を調整します。

 

特別受益を相続財産に加えてから分割する(特別受益の持ち戻し)

特別受益がある場合の遺産分割では、特別受益を相続財産に持ち戻してから各人の相続分を計算します。特別受益があった相続人(特別受益者)は、相続分から特別受益の価額を引いた残額を相続します。

 

【例】

相続人はA、B、Cの3人であり、相続人Aは特別受益者であったとします。

 

1.相続人Aが受けた特別受益の価額を相続財産の総額に加算します(特別受益の持ち戻し)。

2.特別受益を加算した相続財産を相続人A、B、Cで分け合います。

3.相続人Aがもらえる遺産の価額は、相続分から特別受益を差し引いた残額となります(図表1)。

 

[図表1]
 

 

特別受益を相続財産に持ち戻すときの価額は贈与したときの価額ではなく、原則として相続開始時、つまり被相続人の死亡時点の価額によります。不動産など価格が変動する資産のほか、現金についても消費者物価指数を参考に換算することとされています。

 

特別受益が相続分を超過する場合

特別受益が上記の方法で求めた相続分と等しいか相続分を超過する場合は、特別受益者は相続で財産を受け取ることができません。この場合は、特別受益のない相続人どうしで相続財産を分け合います。

 

なお、特別受益が相続分を超過する場合でも、過去に贈与された財産を返す必要はありません(図表2)。

[図表2]

 

特別受益の持ち戻しに時効はない

特別受益の持ち戻しには時効がありません。つまり、生前贈与で特別受益にあたるものは、5年前のものであっても50年前のものであっても相続財産に持ち戻すことになります。

 

ただし、民法の改正により、遺留分を計算するときの特別受益の持ち戻しには制限が設けられています。2019年7月1日から、遺留分の計算をする場合に相続財産に持ち戻す特別受益は、相続開始前10年間のものに限定されています。

「特別受益の持ち戻し」は他の相続人が主張する

遺産分割で特別受益を相続財産に持ち戻すには、特別受益のない相続人がそのことを主張しなければなりません。通常、特別受益者が自ら相続分の減額を申し出ることはないからです。特別受益を主張するときは、特別受益の時期と金額を明らかにする証拠が必要になります。

 

遺贈や死因贈与による特別受益であれば、遺言書や贈与契約書が証拠になります。生前贈与による特別受益であれば、贈与契約書のほか通帳や預金口座の記録、登記事項証明書(登記簿謄本)などが証拠になるでしょう。

 

特別受益は何年前のものでも相続財産に持ち戻すことができますが、過去にさかのぼるほど特別受益があったことの立証は難しくなります。たとえば、銀行が預金の入出金記録を保存する期間は10年以内であることが一般的で、他に証拠がなければそれより前の贈与を調べることは困難になります

特別受益があったことの立証が難しい場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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