(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性は母親を亡くし、相続手続きが必要になりました。しかし、相続財産のなかには行政から倒壊の危険性を指摘され、解体を求められている空き家が含まれています。面倒なのでいっそすべて相続放棄したいのですが…。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとにわかりやすく解説します。

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    空き家の解体が面倒…いっそまとめて相続放棄したい

     相談内容 

     

    母親が亡くなり、相続が発生しました。母親は横浜市内の戸建て住宅のほか、九州の不動産を所有しています。両方とも、数年前に亡くなった父親から母親が相続したものです。

     

    九州の不動産はもともと父親の実家だった場所で、かなり過疎化が進んでいる県庁所在地にあります。

     

    じつは、父親の実家が所在する市区町村から通知が届きました。要約すると「所有されている家屋に倒壊の危険性があり、危険な建造物と判断しました。所有者として速やかに解体などの手続きを進めてください」と書いてありました。

     

    相続人として、この要請に応じなければならないのでしょうか? 面倒なので、いっそのこと横浜市内の自宅をあきらめ、相続放棄も検討しています。

    新たな相続人と相談を、本当に後悔しないかよく考えて

     回 答 

     

    相続放棄した場合、亡くなった方の不動産の管理責任について、民法では以下のように規定されています。

     

    民法940条

    相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

     

    相続放棄をしても「自己のものを管理するとき」程度の管理責任があるとされています。

     

    もし相続放棄したあとに適切な財産を管理しなかった場合、2つのリスクがあると考えられます。

     

    1つは相続財産である不動産を管理しなかったために財産価値が減少した場合、債権者や後順位の相続人から、減少した分の損害賠償請求を受けるケース。

     

    もう1つは、建物などが倒壊などをして他人にケガをさせた場合、または失火の原因になった場合などの損害賠償請求の可能性があります。

     

    今回のケースで可能性があるのは、後者の可能性でしょう。

     

    では、相続放棄した方が管理を免れるには、どうすればいいのでしょうか?

     

    民法によると「次の相続人が管理を始めるまで」管理義務が及ぶと規定されています。

     

    つまり、次順位の相続人がいる場合には、その人に財産を引き渡せば管理義務は逃れることができます。

     

    今回のケースの相談者の方は、ひとりっ子で独身とうかがいました。その場合、相続放棄をすれば、亡くなった母のきょうだい(相談者の方のおじおば)に管理責任が行くことになります。

     

    もし亡くなった母のきょうだいまで、相続人全員が相続放棄してしまったら、次順位の相続人は存在しません。

     

    その場合、最後に相続放棄をした相続人が、「相続財産管理人」を選任するなどをすべきだと考えられています。

     

    相続財産管理人は弁護士や司法書士が家庭裁判所から選任されることが多いです。

     

    ほかに相続財産がない場合、これらの専門職の報酬及びなにかあったときのための保証金等として予納金として納める必要があります。

     

    予納金は数十万程度を裁判所から求められることもあるため、相続財産が少ない場合、実務ではあまり用いられていないのが現状です。

     

    申立てをするのは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

     

    とはいえ今回のケースでは、亡くなったお母様には横浜市にも不動産を所有されていますから、相続放棄した場合、当然ですが、こちらも相続できなくなってしまいます。この点も踏まえ、安易に「相続放棄する」という判断を下して大丈夫なのか、慎重に検討する必要があるといえます。

     

    ※本件業務上の経験と個人的な見解とに基づき記載しておりますので、判例等を指し示しているものではございません、内容の正確性、法的整合性等ついては一切の保証をできかねます。各相続のケースでは各専門家の指導の下、個別具体的な判断お願い致します。

     

     

    近藤 崇
    司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

     

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    本記事は司法書士法人 近藤事務所のコラムを転載したものです。

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