(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢が進展する日本で、多くの方が頭を悩ませている相続対策。有益な選択肢に家族信託がありますが、「税務リスク」には十分な注意が必要です。なぜでしょうか? 多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

家族信託に関する税務リスクとは?

家族信託は、遺言や成年後見制度の欠点を補う点で、非常に有用な制度であるということを、記事『詰んだ…不動産の所有者が認知症発症で資産凍結、相続人同士のいさかいに。相続の失敗事例から見る「家族信託」の有効性』で説明しました。一方で、注意点もあります。それが本記事で解説する「税務リスク」です。

 

信託契約の内容によっては、不動産を動かすことによって贈与税や譲渡所得税が課税されてしまうケースがあります。

 

たとえば、信託を設定した際に、そもそも「委託者」と「受益者」が異なる場合、信託開始時に贈与税課税の対象となる可能性があり、知らずに契約してしまうと想定外の税負担が生じます。

 

信託について、委託者と受益者が同一人物の信託を「自益信託」といい、これに対して、委託者と受益者が異なる信託を「他益信託」といいます。

 

家族信託は基本的に「自益信託」です。業として報酬を得て、人のために信託を行う「他益信託」には、金融業である信託業の免許が必要になるためです。

 

少し難しい話になりますが、「受益権」が移転すると、税務上は財産の移転があったとみなすのが通例となっていますので、この「受益権」について、多くの専門家は細心の注意を払うといえます。

不動産と家族信託の相性がいいのは、登記制度があるから

相続対策において家族信託の活用メリットは大きいですが、導入の検討はやはり、不動産に関連するものが中心となるでしょう。なぜなら、家族信託はとくに不動産との相性が抜群だからです。

 

日本の不動産は登記制度がしっかりしているため、登記簿を見れば権利者が明らかであり、また、登記簿はだれでも簡単に調べることができます。そして登記簿には、家族信託に入った不動産であることを登記できます。

 

家族信託である旨がいったん不動産に登記されてしまえば、仮に売買の取引をするときであっても、買主側には、該当の不動産が信託になっていることが明らかになりますので、取引も安全に進めることができます。

 

また、不動産とは非常に相性のいい家族信託ですが、財産が金銭の場合は、通常の信託をした人が持つ通常の預金口座とは別に、信託した現金を管理する信託口口座を作成する必要があります。

 

金銭は、不動産のように登記簿や第三者への公示の制度はありませんので、個別に口座を分け、管理を行うなどの対応が必要になるのです。

 

ただし、銀行によって信託口口座を作らせてくれるかはまちまちですし、自社の信託商品を買った方のみにしか信託口を作らせてくれない、という対応をする銀行も多いように思います。このあたりは家族信託の課題だといえるでしょう。

 

「信託口」と口座に明記された方がトラブルになりづらいのは勿論ですが、あくまで「分離管理」できているかが重要ですので、委託者のある特定の銀行口座を「信託財産である金銭」の管理用に使っている方も、実際には多いようです。

認知症が心配なら「早めの対策」がお勧め

家族信託は、不動産相続で起こりやすい資産の凍結や、親族間の争いごとを防ぐために非常に有用な制度です。

 

導入には、やはりまだまだ専門家の関与が必要だと思われますが、不動産については、登記と組み合わせることによって、非常に実効性が高くなります。

 

やはり、不動産信託もやはり契約ですので、唯一の欠点としては、すでに認知症が発症してからでは作れないということがあります。これは遺言と同様です。

 

そのため、不動産の相続に懸念がある場合や、認知症が心配な方は発症前の早めの対策をお勧めします。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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