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未知の変異型ウイルスがリスクオフを誘発
主に南アフリカ共和国で検出された新型コロナウイルスの新たな変異ウイルスがマーケットを震撼させた。この変異ウイルスは、スパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要な突起を構成するタンパク質)に30を超える変異があると言われており、感染力が強く、既存ワクチンの効果が低くなる可能性が指摘されている。WHO(世界保健機関)は26日、この変異ウイルスを最も警戒レベルが高い「懸念される変異型」に分類し、ギリシャ文字にちなみ「オミクロン型」と名付けた。すでに世界各国で水際対策の強化が行われている。
26日のマーケットではオミクロン型変異ウイルスの感染拡大が警戒され、世界的に株式市場が急落するリスクオフ(投資家によるリスク回避行動)が鮮明になった。特に新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念される欧州株式市場はSTOXX600指数で前日比3.67%の下落となり、米国株(S&P500指数:同2.27%下落)や日本株(日経平均株価:同2.53%下落)を超える下落率となった。個別株では主に航空株やクルーズ株といったトラベル関連株等を中心に大きく値を下げる展開となった。
また、恐怖指数とも言われるVIX(CBOEボラティリティ)指数が28.62まで急騰する中、債券市場では全般的にソブリン債が買われたほか、為替市場でも円やスイス・フランが米ドルに対して上昇するなど、典型的な「安全資産への逃避」が見られた。
「既知の未知」はいずれ「既知の既知」となる
現状ではオミクロン型変異ウイルスがどの程度影響を及ぼすか不透明だが、その一方でテールリスク(発生確率は低いが発生した場合は大きな損失を被るリスク)は相対的に大きいため、投資家としてはひとまずリスク資産を売却する行動に出たと解釈できる。なぜなら、このオミクロン型変異ウイルスによる感染がグローバルに広がり、既存のワクチンや開発中の経口治療薬の効果が低く、重症化リスクも高いことが判明すれば、(ワーストケースシナリオとして)経済正常化へのプロセスが一気に逆回転することにもなりかねないからだ。
VIX指数が急騰する中、株式だけでなく、為替、コモディティ、暗号資産など金融市場全般にリスクオフが波及した背景には、この「既知の未知(Known,Unknown)」が大きく影響した可能性がある(オミクロン型変異ウイルスの存在自体はすでに「既知」であるが、その影響については「未知」であることから、「既知の未知」状態となる)。
株式市場では比較的リスクの高いイベントにおける「既知の未知」状態を嫌う傾向があるため、今回のような世界的なリスクオフは(過去の経験則に照らし合わせてみれば)起こるべくして起こった事象と言えよう。
しかし、「既知の未知」はいずれ「既知の既知(Known、Known)」となる。オミクロン型変異ウイルスの性質は不明な点が多いが、今後数週間から数ヵ月で検証データ(重症化率や既存ワクチンの有効性、開発中の経口治療薬の効果など)が明らかになると言われており、投資家もリスクをある程度織り込むことが可能になる。そうなればマーケットも徐々に落ち着きを取り戻すことが期待される。
実際、今回のようにVIX指数が20以上40未満となった過去の局面では、その後のS&P500指数の平均リターンがプラスになる(「VIX20未満」より「VIX20以上40未満」のほうが1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後の平均リターンが高い)傾向が見られた。「既知の未知」リスクの発生によってVIX指数が急騰(S&P500指数は急落)し、その後は「既知の未知」リスクが「既知の既知」リスクになる過程で市場が落ち着きを取り戻し、S&P500指数が回復するパターンを繰り返していたと推察される。
ファイザーはオミクロン型変異ウイルスに従来のワクチンが効かない場合、対応したワクチンの供給を100日以内に始める方針だと報じられている。重要なことは、今回のようなリスクオフ局面で極端な狼狽売りをしないことだろう。
※個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『オミクロン型変異ウイルスで世界同時株安 投資の心構えは?』を参照)。
(2021年11月29日)
田中 純平
ピクテ投信投資顧問株式会社 ストラテジスト
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