ペットの長寿化によって、寿命が短かったころにはみられなかった病気にかかることも増えてきました。本記事では、獣医師として数々の動物の命と向き合ってきた中村泰治氏が、犬の心臓病の9割を占める「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)」ついて、症状と早期発見のための対処法を解説します。

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咳をしていたら要注意!命に関わる心臓の病気

【僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)】

気になるサイン

・咳が出る

・元気がない、疲れやすくなった

・呼吸の回数が多く、苦しそう

・呼吸が苦しくて夜眠れない

・かかりつけ医で心臓に雑音があるといわれた

心臓の弁に異常が起き、血液が逆流してしまう

僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁という弁に異常が起こる病気です。心臓の中にある弁は、血液を送り出したり逆流を防ぐために、閉じたり開いたりする門扉のような働きをしています。僧帽弁とは、心臓の中にある4つの弁のうちの1つで、他の弁と同様に、血液が正常に流れるための働きをしています。

 

本来であれば、弁は一方通行にしか開かず、血液の逆流を防いでいます。僧帽弁も、健康な心臓であれば左心房から左心室に血液が流れるときだけ開くようになっています。しかし、加齢やその他の理由によって弁がもろくなるなど性質が変わってしまう(変性)と、本当なら左心房から左心室に流れるはずの血液が、左心室から左心房へと逆流してしまいます。

 

このほか僧帽弁を支える腱索に異常が起きて、切れてしまうことでも発症します。腱索が切れて発症する場合は、弁が変性して発症する場合と比べて、急激に病気が悪化することがあるので注意が必要です。

 

血液が逆流すると、全身に送り出せる血液の量が減ってしまいます。初期であれば、心臓を通常よりも早く活動させるなどして、全体の血液量が減らないように体内で自動的に調節します。そのため飼い主が見ている範囲では、異常は感じられないかもしれません。

 

しかし病気が進むと、肺に水が溜まる肺水腫や心臓のポンプ機能がうまく働かなくなる心不全などが起こりやすくなり、最終的には肺に悪影響が出て酸素濃度が低下することがあります。この状態では、命に関わるようになります。

 

僧帽弁閉鎖不全症は主に小型犬や中型犬に多い心臓病で、大型犬ではあまり起こりません。犬の心臓病のおよそ9割を占めているといわれていて、犬の心臓病として代表的な病気です。

 

また、年齢が上がると発症する確率が高まるため、高齢の小型・中型犬に多い傾向があります。犬種ではチワワやポメラニアン、プードル、ミニチュアダックスフント、マルチーズ、ヨークシャーテリアなどで多くなっています。

 

一方で、猫にはこの病気はあまりみられません。

発症初期は無症状が多く、飼い主が気づくことは難しい

初期の症状が出てくる年齢は5~6歳が最も多いといわれています。しかしこの段階では、血液の逆流などが起きていても、それを補うために心臓がより活発に動くため、あまり目立った症状は起こりません。

 

よくよく注意してみれば、普段よりも疲れやすかったり、寝ている時間が長くなるなどの変化はあるかもしれませんが、初期に飼い主が気づくことができるケースはまれです。病院を受診しても、心臓の雑音が軽度な場合は、気づかれないケースもあります。

 

症状が進行してくると、咳が増えることで気づくケースが多くなります。また、初期の頃よりも散歩に行くのを嫌がったり、食欲が落ちる、呼吸をするときに苦しそうな様子をする、呼吸が苦しくて夜眠れない、あるいは呼吸に集中している様子など、目立った異変も増えてきます。

 

呼吸が苦しいときに取る姿勢に「犬座姿勢(けんざしせい)」という姿勢があります。これは犬が前足を立ててお座りをした姿勢を指します。心臓病で呼吸が苦しい犬は、この姿勢で胸を開いてハアハアと苦しそうな呼吸をすることがあります。この頃になると犬もかなりの息苦しさを感じていると思われます。

 

同時期には弁の変性も始まります。もともと弁は透き通ってクリアなのですが、病気が進むと白く濁ってきて、分厚くなったりボロボロになってきます。この頃になると心臓の雑音が目立ち始め、病院で指摘されることが増えてきます。

 

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※本連載は、中村 泰治氏の著書『もしものためのペット専門医療』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

もしものためのペット専門医療

もしものためのペット専門医療

中村 泰治

幻冬舎メディアコンサルティング

飼い主のペットに対する健康志向が高まるにつれて、動物医療に対して求められることは多様化し、専門的な知識が必要とされてきています。 動物病院は多くの場合、1人の医師が全身すべての病気を診る「1人総合病院」状態が一…

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