近年、少子化による若年労働者の不足に伴い、多くの中小中堅企業では採用難が深刻化しています。「共同求人」「合同会社説明会」「合同入社式」…、地方の中小企業が新入社員の採用に苦戦しています。新卒採用にはどんなメリットがあるのでしょうか。※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

経営者の質、企業の質、社員の質が問われる

■「人材確保」は「受け皿づくり」

 

近年、少子化による若年労働者の不足に伴い、多くの中小中堅企業では採用難が深刻化している。同友会会員企業でも基本的に状況は同じだが、深刻さの濃淡でいえば幾分、度合いが薄い印象がある。ことに上記三点セットを着実に実行している企業では、そうである。なぜだろうか。

 

同友会の新入社員採用の基本であるこの「共同求人」の出発点で中心となったのは当時の北海道同友会事務局長(後の代表理事、中同協副会長を務める)で、同友会の基本理念である「三つの目的」を創案した大久保尚孝氏である。大久保氏は銀行マン出身で、北海道同友会発足時、請われて事務局長として加わり、初期の同友会活動を理論面で支えたと評されている。

 

そうした経緯を考えると、「共同求人」活動も、「労使見解」とともに、「よい会社をめざす」「よい経営者になろう」「よい経営環境をめざす」という「三つの目的」の考え方を色濃く反映する方向に染め上げられていったのは必然であった。

 

そうは言っても、1972年に「共同求人」が始められたとき、目的はもっとシンプルなものだった。時代は高度経済成長期であり、北海道は大手企業の若手人材の草刈り場となっていた。

 

地元企業は人集めに苦労しており、そうした状況下、「知名度の低い中小企業が共同の力で人材を確保しよう」という狙いでこの運動はスタートしたのだ。形態も当初は新聞に求人広告を出し、事務局が一次面接と適性試験を代行するというもの。企業経営者はそこには顔を出していなかった。最初の年は、延べ90社に84人が応募。採用は22人にのぼった。

 

その後、中小企業の実態を理解してもらうために高校の進路指導(就職担当)の教諭と会員との懇談会がもたれるようになり、75年になると新卒採用を希望する会員企業が一堂に会した合同企業説明会が行われるようになる。多くの学生が多くの企業の説明を聞くことができ、お互いに間違いない選択が可能になったのだ。

 

こうして現在各地の同友会で実施されている共同求人活動の原型がほぼできあがる。功利的な求人活動から、社会や地域とつながった活動へと広がりをもつようになったと言ってもいい。北海道についで、愛知、東京、広島、そして他の同友会へと、この運動は次第に広がりを見せていった。

 

しかし、そうした動きの中で、同友会会員たちにはさらなる課題が突きつけられる。大久保氏はその手記「同友会の社員教育」でこう記す。

 

「『人材確保』は『受け皿づくり』と不離一体であり、(中略)共同求人活動に取り組む前に、会員が協力し同友会として社員教育をしてそれぞれの社内体制を整え、社会的信用の基礎を固めることにしました」

 

つまり、こういうことである。共同求人活動を展開していく過程で会員たちは自らの経営者の質、企業の質、社員の質が問われていることを痛感するとともに、場当たり的な採用ではだめで、きちんとした給与体系や労務人事制度をつくるとともに、経営計画にのっとった定期的な採用が必要不可欠なことに気が付いたのである。きちんとした社員教育実践も、そうである。

 

だがこれは、今に至るも大変な難題である。従来、中小企業経営者の多くは仕事が増えれば人を増やすという考え方で、社員は中途採用が圧倒的だった。したがって就業規則も明確なものではなく、給与体系や人事評価もずさんなものにとどまっていた。社員教育もなおざりにされていた。

 

しかしこれでは質のいい社員は集まらないし、集まっても出来不出来がバラバラにならざるをえない。しかも多くが会社への忠誠心も薄く、給与や待遇、あるいは人間関係で不満が昂じればすぐ辞めていくような状況だったと言ってよい。

 

とはいえ場当たりの中途採用をやめて社員の定期採用を始めることは、企業の固定費に直接影響する。先行きが見えない中で、経営者として安易に「定期採用を始めます」と言えないのも理解できなくはない。しかも前提となる給与制度、就業規則、教育制度など社内体制づくりも簡単ではない。小規模事業所ではことさらである。

 

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

 

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    ※初出:清丸惠三郎著『小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月11日刊)、肩書等は掲載時のまま。

    小さな会社の「最強経営」

    小さな会社の「最強経営」

    清丸 惠三郎

    プレジデント社

    4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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