今回は、「決算書が正しく作成されているか」を効率よく見抜く方法を見ていきます。※本連載は、公認会計士・山岡信一郎氏の著書、『新訂版「おかしな数字」をパッと見抜く会計術』(清文社)の中から一部を抜粋し、決算書上の不正やミスによる「おかしな数字」について、その基本的な見抜き方をご紹介します。

担当者にどんな「質問」をするか?

今日は、「いかに効率よく、決算書が正しく作成されているかを確認するか」ということについて見ていきます。

 

たとえば上場企業において、経理部長自身が決算数値をすべて確認することは実務的ではありません。当然、経理担当者に作業を分担させこれを管理することで決算数値が正しく集計されていることを確認することになります。問題はその確認の仕方です。自分自身が、担当者と同様の作業を実施してみて確認するという方法も考えられますが、効率的な方法とはとてもいえません。

 

そこで、ここでは担当者に質問するという方法を考えてみましょう。

 

①なぜ正しいか――正しいことを確認する方法を知る

 

経理担当者は正しい数字を作るために、さまざまなチェックを行っているはずです。まずはその方法について質問してみます。

 

たとえば「現金」を考えてみましょう。「この現金残高が正しいということについて、どのような確認を実施したか」と質問したとします。もし、キチンと確認する担当者であれば、「帳簿残高と現金を調べた結果とを照合し、一致を確認したうえで決算数値としました」とコメントすることでしょう。

 

逆に言えば、このようなコメントがなされない場合、集計された数値が正しいかどうか、確認されていない可能性があるということです。もし確認が十分に行われていない可能性があるならば、自分で本当に現金残高が正しいかどうかの確認を行ったほうがよいでしょう。でないと「おかしな数字」を見逃してしまうことにもなりかねません。

合理的な計算方法で導き出されているかを確認

ある会社では、製品保証引当金を前期に比べ多額に計上していました。このとき、筆者がまず質問したのは、「この製品保証引当金が過不足なく正しく計上されていることを説明してください」ということでした。担当者からの回答は、「将来、販売した機械の無償保証が見込まれるので、1台当たりの修繕費を見積もり、販売台数分の製品保証引当金を計上しました」というものでした。

 

そこで再度筆者は、「1台当たりの修繕費はどのように見積もりましたか」と確認したところ、「過去の経験からだいたいの見当で私が見積もってみました」とのことでした。さらに筆者は、「修繕費は、販売したすべての機械に発生する可能性が高いのですか」と質問したところ、「販売したすべての機械というわけではありません」との回答が返ってきました。

 

筆者は、製品保証引当金計上の手続について詳細を知っていたわけではなく、また多くの資料を見ていたわけでもありません。それでも、数回の質問によりこの会社で計上されている製品保証引当金の金額の精度に疑問をもつことになったわけです。説明するまでもないですが、問題となるのは、担当者の「だいたいの見当で」と「販売したすべての機械というわけではない」とのコメントです。だいたいの見当では、「合理的に」金額を見積もったことにはならないため、会計上「引当金」の要件を満たしません。

 

【参考】引当金の要件(企業会計原則注解18)

(ア)将来の特定の費用または損失であること

(イ)発生が当期以前の事象に起因すること

(ウ)発生の可能性が高いこと

(エ)金額を合理的に見積もることができること

 

また、販売したすべての機械に修繕が必要というわけではないということであれば、修繕という事象の発生可能性が、合理的に見積もられていないことになります。

 

結局、この会社が計上した製品保証引当金には「おかしな数字」が含まれている可能性が高いことがわかりました。

 

会社が考えた計算式

製品保証引当金=l台当たりの修繕費×販売済機械台数

 

疑問点

①l台当たりの修繕費は過去の実績から合理的に算出されたものか

②販売したすべての機械につき、修繕費が発生するのか

 

その後、合理的に見積もったと考えられる計算方法で再計算してもらったところ、1台当たりの修繕費は、当初の見積りより少なくなり、また販売済機械台数に過去の実績から割り出した修繕発生率を考慮したことにより修繕発生見込台数は減少しました。このことにより製品保証引当金は、当初の残高から大幅に減少した金額で計上されることになったのです。

 

修正された計算式

製品保証引当金=過去3年間のl台当たりの修繕費実際発生額の平均値×修繕発生見込台数(=販売済機械台数×修繕発生率)

 

②正しい数字をつくるという意識――質問の効果

 

基本的に「決算書におけるこの勘定科目の残高が正しいことについて、どのように確認したか」と質問してみることは、経理担当者が「正しい数字をつくる」ということについて、どのように意識しているか確認する上でもよい方法だと思います。どうしてもルーチンワークは、「前回も同様の方法で行っていたから」という理由で、作業自体の意義も目的も意識されず行われていることが多くなりがちです。もちろん、上司として「何が行われていれば、手続として十分か」「重要なポイントは何か」ということは正しく知っておく必要があります。

本連載は、2016年5月16日刊行の書籍『新訂版「おかしな数字」をパッと見抜く会計術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

新訂版 「おかしな数字」を パッと見抜く会計術

新訂版 「おかしな数字」を パッと見抜く会計術

山岡 信一郎

清文社

決算書や帳簿の数値に潜む不正・ミスを効率的に見抜くためのノウハウや、多くの企業の数字を見てきたプロが、実務ですぐに使える知識をわかりやすく解説。「おかしな数字」を見抜くための基本姿勢から、勘定科目別の着眼点まで…

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