予算管理を行うには月次決算が重要
会社は、利益目標を達成するために利益計画を作成します。そしてこの利益計画を実現するために、詳細な予算を策定し管理していきます。利益計画や予算管理の体制については、会社が事業に継続性があるか、収益性があるかを見る上でとても重要であり、東証上場の際にも、利益計画等に合理性があるかという点については、審査のポイントとなっています。
また会社は、予算管理を確実なものとするために月次の予算を組むことが一般的です。そのためには、月次決算を行うことが必要になってきます。つまり、年に1度の決算が近づいてきたのでまとめて仕訳を経理システムに入力して実績を確認するということでは、予算が実現できるかどうかのタイミングとしては遅すぎるということです。
こうしたことから、会社内部からも数字を読むことができる場合には、
●予算の数字
●月次の数字
も通常得ることができます。
予算の数字、精度、策定時の環境を留意して分析
予算の数字を読むことによって「おかしな数字」を見抜くためのもっとも効果的な方法は、予算と実績数値を比較することです。
予算と実績を比較して数字を読む場合、
●予算の数字が意味するものは何か
●予算の精度が高いか
●予算の策定時の環境がどうだったか
といった点に特に留意する必要があります。
(1)予算の数字が意味するものは何か
予算で策定される数字には、「達成可能性・実現可能性が高く考慮されたもの」と、「達成可能性・実現可能性は低いが目標値として有効と思われるもの」とがあります。前者は対外的に、後者は社内的に説明するための予算として主に使われるものです。
このような予算の違いを理解しておかなければ、実績と比較したときの差異の説明が正確にできないことになります。たとえば予算が目標値的に設定されていたものであれば、予算と実績の差異は、当初から想定済みだったということになります。
(2)予算の精度が高いか
これは説明するまでもなく、精度の高い予算と実績を比較しなければ、その差異の分析は期待した結論が得にくいということです。根拠の薄い予算数値と実績を比較しても、その差異に何の意味もありません。
(3)予算の策定特の環境がどうだったか
どんなに精度の高い予算制度を有していても、環境の変化があれば、実績とずれる予算にならざるを得ません。そのため、実績と比較すべき予算が、その策定時にどのような環境にあったかを把握しておく必要があります。これを把握していないと、勘定科目別に予算と実績を比較した場合の差異が、会社内部の問題なのか、会社外部の環境か、ということを分析することが難しくなります。
ではこのような点に留意しつつ、どのように数字を読めばよいでしょうか。たとえば、人件費予算を利用した数字の読み方をとりあげてみます。人件費には給与、賞与、法定福利費、福利厚生費などさまざまなものがあります。給与については、従業員数、給与テーブル、残業時間などでその金額が決まります。
もし、従業員数と給与規程(給与テーブル)がかわらないのであれば、変動要因となるのは残業代だけです。すると、精度の高い予算が策定されている場合、予算実績差異を分析すれば、その原因は残業代分だけのはずです。もし、そこに残業代以外の差異が存在するとすれば、すなわち、その金額分が「おかしな数字」ということになるでしょう。
予算と実績のかい離原因を徹底的に調べる
筆者がある会社で予算実績差異を分析していたときのことです。人件費予算に比して実績値が大幅に上回っていたため、その原因を調査すべく、従業員の異動状況、予算上の残業時間と実際に発生した残業時間の差異、など差異原因となりうる要素を調べました。
ところが、どうしても差異原因がわかりません。予算の策定方法にも特に問題はありませんでした。そこで、人件費を分析的に調べるのではなく、給与明細と帳簿金額を1件1件照合するという手続にかえ調査することとしました。いわゆるローラー作戦です。すると、給与明細にない給与が帳簿に含まれていることがわかりました。
問題は、給与明細にない給与とは何かということです。調査を進めると、給与明細なしでアルバイト代(勘定科目としては「雑給」が使用されることが多いですが、この会社では「給与」が使用されていました)として銀行振込されていることが判明しました。つまり、差異原因としては、従業員ではなく、アルバイトの大量採用にあったということです。
このように、予算と実績を比較し、想定外の事象を正しく把握するとともに想定した事象を前提とした予算と実績のかい離原因を検討することにより、実績数値に「おかしな数字」が紛れ込んでいないかが明らかとなることがあります。
余談ですが、前記の事例で疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。「大量のアルバイトを採用したという事実は、事前に把握しておくのが当然ではないか」と。確かにそのとおりで、本来、そういった概要を頭に入れて数字を読むべきです。しかし、このとき、会社サイドは筆者にその話をしていませんでした。なぜアルバイトの話を私にしなかったのでしょうか。後で聞いた話ですが、ある店舗での架空アルバイト採用という事件があり、そこに触れられたくなかった、ということでした。