決算数値以外から得られる情報との整合性はあるか?
前回説明したように、前期比較を通して企業の事業活動を推測することができます。重要なのは、上記のような推測した事象が企業に実際に起こっているか、ということです。そこで決算数値以外から得られる情報との整合性を検証する必要がでてくるということです。
たとえば、有価証券報告書から得られる定性的な情報から、当期の経営方針や戦略がわかるようであれば、これと数字から推定された事業活動の整合性を検証することが可能です。
前例の決算数値を前提として、次のような定性的な情報があった場合、どのようなことが考えられるでしょうか。
当社は、需要増に対応するため、高付加価値製品Aの生産に力を入れました。結果、売上高の著しい増加を果たし、利益増加を達成いたしました。
実務上、このようなわかりやすいウソにあたることはきわめて稀かと思いますが、まずは簡単な例で考えてみます。「高付加価値」とは、一般的に利益率が高いものと考えられます。ところが数字が示しているのは、利益率が低い、「低付加価値」製品が売れたという事実です。
仮に定性的な情報が正しいとすると、どのような事実の発生が考えられるでしょうか。たとえば、「高付加価値」製品の販売と「低付加価値」製品の販売の両方があったということが1つ考えられます。しかし、この場合は定性的な情報として、両方の事実が開示されるべきと考えます。もう1つ考えられることは、何か別の数字が売上高、もしくは売上原価に加わっているということです。すなわち不正や誤謬があったのではないか、ということも考えられるのです。
現実には、上記のような事実が簡単に明らかになるケースは稀でしょう。しかし、考え方としては、このように前期比較するということは「おかしな数字」を見抜く上での基本中の基本といえます。
「前期の数字が正しい」とは言えない点に留意
前期比較は、「おかしな数字」を見抜く方法として、効果的かつ容易なものであるため、そのメリットは大きいといえます。しかし、この前期比較には欠点もあります。
前期比較は、前期の数字を基準とし、そこからの増減を分析するという形で行われることを基本とします。つまり前期の数字が正しいという前提があるということです。もし前期の数字が「おかしな数字」であれば、この「おかしな数字」を基準として当期の数字を分析してみても、当期に「おかしな数字」が含まれるかどうかわかりません。間違った数値からどれだけ著増減しているかを調べても、著増減の内容を正しく分析したところで、当期の数字に「おかしな数字」が含まれてしまうことになります。
したがって、まず前期の数字を正しいという前提で比較を行っているのだということを意識しておきましょう。実務でも見られるのは、当期の数字が絶対に正しいという確信が持てた場合、前期比較を行うことによって前期の数字が「おかしな数字」だ、ということが明らかになることもあります。