決算書の数字を「単なる数字」としてとらえない
前回に引き続き、「いかに効率よく、決算書が正しく作成されているかを確認するか」ということについて、考えていきます。
①「数字を読む」ことをしたか?――経理担当者の資質
経理担当者に要求されることはさまざまです。会計・簿記の知識、数字に対する緻密さなど、いろいろあります。なかでも非常に重要なことは、「数字を読む」ことを意識しているか、ということでしょう。このことを意識できている人とそうでない人では、経理担当者としての資質に雲泥の差があります。
「数字を読む」ことの意識の仕方は人それぞれかもしれません。しかし、経理という仕事は、単に数値を集計しているわけではなく、その数値の背景にある経済実態を常に意識し、さまざまな判断を行った上で決算数値をつくり上げるものだということを十分理解しておく必要があります。さらに言えば、この意識は経理担当者に限らず、すべてのビジネスパーソンにとって重要な意識といってもよいかもしれません。
ある会社で為替差益が前期に比較して多く計上されることがありました。それを見た経理課長は、「何かおかしい。当社には外貨建て取引はアメリカへの輸出しかないし、この1年の為替相場を見るとずっと円高傾向だぞ」と言ったかと思うと、すかさず過去1年間の為替相場推移表をネットで調べ、ドル建ての売掛金の決済のタイミングと為替相場の推移を重ねて見始めました。
「やはり、どう考えてもこれほどの為替差益がでるような為替相場の推移ではないぞ」といって経理課長は担当の経理部員に確認を指示しました。結果、驚くべきことに、ドル建売掛金決済においての会計処理に問題はなかったのですが、期末のドル建売掛金の換算仕訳が貸借逆に起票されていたことがわかったのです。
この経理課長は、まさに「数字を読む」という姿勢が身についていたということでしょう。数字を単に数字としてとらえるだけではなく、その数字を生み出した背景にある経済実態と数字を対比し、そこにかい離が生じていないかという視点の重要性がよくわかります。
ここで重要なことは、こうした「数字を読む」という意識を、この担当の経理部員がもっていたか、ということです。結果として、このようなミスが発見できたか・できなかったかというのは、仕方がないことです。むしろ、「数字を読む」ことの重要性を理解し、少しでも意識して経理業務を行っていたか、という過程のほうが重要です。
もし、この意識をもって期末のドル建売掛金の換算仕訳を起票していれば、仕訳の貸借を逆に入れてしまうということはなかったはずです。数字を単なる数字として見ている場合に起こる、よくあるミスといえるでしょう。
決算書の数値の「異変」に気付くには・・・
②基礎的な数字を頭に入れておく――売上高、当期純利益、資本金ほか
このようなミスを防ぐためにも、上司として、この「数字を読む」ということについて、経理担当者の意識を確認してみることが必要です。たとえば、自分の会社の決算書の主要な数値が覚えられているか、という確認方法もひとつ考えられます。自分の会社の売上高、経常利益、当期純利益、資本金、総資産、純資産といった金額が頭に入っていれば、他の決算数値を見たときに、「何か」に気付くことが多くなるはずです。
たとえば、年間売上高250億円という数字が頭にあれば、ある月の売上高が100億円である場合、すぐに「今月は半分程度の売上だ。何が起こったのだろう」というように気付けるようになります。そしてこの原因を調べることで「今月は、営業日数が少ない関係で売上が大きく減少するのだな」ということがわかったとしましょう。すると今度(来年)は、売上高月次推移を見たとき、売上が他月の半分となっている月を見て、その背景や(大げさかもしれませんが)経済実態もイメージできるようになるということなのです。
【決算書が正しく作成されているかを確認するPOINT】
①決算書等に「おかしな数字」が含まれていないかどうかを知る手がかりとして、その作成にかかわった担当者等に「正しい数字で作成されていること」を説明してもらうことが重要である。
②その担当者は、「数字を読む」ことを意識した上で経理作業を行っているかどうか把握しておく必要がある。その際、会社の基本的な数字(売上高、経常利益、当期純利益、資本金、総資産、純資産など)が頭に入っているかを確認してみることもひとつの方法である。