サイゼリヤの会長からもらった凄いアドバイス
■取引先に喜んでもらえているか
話を広浜氏に戻す。
「とにかくセミナーでは何のために経営をやっているのか、が問われる。私も受講生と一緒になって考えるのですが、なかなかこれといった答えが出ない。
あることで悩んでいるときに、今は上場企業に成長しているある同友会の先輩に、『そもそも人間というのは、相手のことを思って何かをしてあげれば、相手に喜んでもらえるだけでなく、自分もまた喜べるものですよ。しかもそのことを会社という組織で実行すれば、一人ではやれない規模のことを、分業で効率的にできるじゃないですか』といった意味のことをアドバイスされて、目から鱗ではないけれども、ある気づきを得ることができたのです」
ヒロハマではすでに経営指針を作成していたが、広浜氏は誰の手も借りず自分だけでつくっていた。社員を必ずしもパートナーと見なしておらず、対して社員は自分たちを会社の重要な担い手として認識しておらず、仕事も給与をもらうためにするもので人ごとにすぎないと受け止めがちだった。少なくとも部課長クラスを巻き込んで、新たな経営指針をつくる必要がある。それが、広浜氏の大きな気づきの一つであった。
もう一つは、これまでは取引先を含め社会に対し、「(われわれは)相手に喜んでもらえることをしてきたか」という点だった。
注文された規格通りの商品を納めて終わりとしてこなかったか。実は缶とキャップの接合工程で不具合があって、お客様の生産ラインが止まっても、それまではヒロハマ側の納めた商品が規格通りであれば、あとは相手側の問題として、何の対応も取らないできた。
これでは取引先に喜んでもらえる企業にはなれない。広浜氏はそう考え、幹部社員と話し合い、自社の商品が原因でなくてもライントラブルがあれば技術者を派遣し、解決に全力で協力することにした。こうして次第にヒロハマは取引先の信頼を得ていく。やがて、他のキャップメーカーと取引しているメーカーからさえも相談が来るようになった。
そうした中で、ヒロハマのトップメーカーへの道が開けていった。「それでも道は長かったですよ。『缶パーツとその関連技術を通じて缶の社会貢献を全面的に支援しよう』と一番目に掲げた経営指針が社内に浸透してきたと思えたのは、ようやく10年ほどたってからでしたね」と広浜氏はしみじみと語る。
実は氏に先のような適切なアドバイスを与えたのは、今日、国内外に1400余のイタリアンレストランチェーンを展開するサイゼリヤの創業者、正垣泰彦会長である。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー