「原価率が下がり、棚卸資産が増えた」は粉飾決算の疑い…財務諸表に浮かび上がる、会社の“リアル” (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ、M&Aに失敗したと感じる企業が絶えないのでしょうか? 筆者らが分析したところ、失敗の多くがビジネスデューデリジェンス(以下、ビジネスDD)に起因していることがわかりました。実は、そもそもビジネスDDを実施していない会社も珍しくありません。ビジネスDDを行わずに企業を買収することは、事業の中身(事業内容の現状、問題点、強みなど)を知らないまま購入するということ。未実施のまま買収すれば、効率的な運営ができず、効果が上がらないのも頷けます。ここでは事業の中身を知るために欠かせない手順の1つ、「経営分析」について見ていきましょう。

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PLとBSから浮かび上がる「会社のさまざまな状況」

PL、BSを使って財務状況などを明らかにする「経営分析」

経営分析とは、PL(Profit and Loss statement:損益計算書)とBS(Balance sheet:貸借対照表)などを使って会社の業績や財務状況を明らかにすることであり、具体的には、主にPLとBSの推移と、それらを活用した財務分析を指します。PLとBSの推移では、売上や原価、各利益の推移を見て、企業の成長性や収益状況の推移を明らかにします。財務分析に使用するのは、収益性や生産性、効率性、安全性などの指標です。その他、事業別や、商品別・顧客別の売上推移も、経営状況を把握する上で重要になります。

 

なお、この経営分析は、財務デューデリジェンス(以下、財務DD)で算出した実態BSと実態PLを活用することが望ましいといえます。特に事業譲渡で事業の一部がM&Aの対象となる場合は、対象となる事業の範囲で分析する必要があります。

PL、BSからイメージできる「会社の実態」

経営分析において、数値を自動計算させた「作業」の結果に「思考」を加えて会社の実態をイメージするためには、「仮説」を立てる必要があります。この仮説力は、短期間のヒアリングで経営状況の本質を見極める際に重要になります。

 

例えば、営業利益が何年も続けてマイナスで、固定費である販管費が削減できていなければ、営業利益黒字化への経費削減の取組みができておらず、経営者の利益への意識が低い可能性がある、という仮説を立てることができます。

 

また、小売業で、売上高はやや上昇している一方で、連続で赤字幅が増大しており、原価率や広告宣伝費が上昇していたとします。これは、売上減を安売り広告で補おうとして、逆に利益を減らしてしまった状況が見え、経営者が「安売りによる売上増」という短絡的な施策で業績低迷を打開しようとしているという仮説が描けます。

 

ただし、この仮説を立てるには、「中小企業は、大量仕入で仕入値を抑え、システム化で人件費を抑えて効率化を図った大企業には、価格競争では勝てない」「商品等の独自の価値で勝負しなければならない中で、無理に安売りを続けてしまうと、経営が悪化するだけでなく、安売りを求める顧客しか集まらなくなる恐れがある」という事前の経営やマーケティングの知識も必要になります。

 

その他、製造業で、赤字続きで借入が年々増加しているにもかかわらず、有形固定資産は横ばいであったとします。この場合、借入金は運転資金であり、業績悪化による運転資金不足を、経費削減等ではなく借入に依存している恐れがあり、経営者の経費削減の意識や決断力の欠如の可能性があります。これは企業の経営が悪化する典型的なパターンです。売上高借入金比率を見て借入過多に陥っていないかを確認し、金融支援が必要な状態に陥る可能性を探ることも重要となります。

 

さらに製造業で、年々売上が増加していても、利益は横ばいか減少しているケースがあります。経費を見ると、人件費が増加し、売上高人件費比率が増加しています。この場合、売上増に対応するために新たに人材を採用したものの、人材をうまく活かせていないと考えられます。これは、現場のしくみができていない、現場の統制が取れていない、OJTが機能していない、そもそも利益状況を考慮せずに場当たり的に人を増やしている、などの原因が考えられます。

 

このように、PLとBSを見るだけで、数字だけでなく会社のさまざまな状況を描くことができます。そして各利益や人件費の売上高に対する比率を見ることで、さらに状況が理解しやすくなります。こうして定量分析結果を踏まえて仮説を立てた上でヒアリングを行えば、会社の現状を、短時間で、より深いレベルで把握することが可能になるのです。

株式会社レヴィング・パートナー 代表取締役 事業再生コンサルタント
中小企業診断士

大手総合電機メーカーに15年在籍し、部門で社長賞を受賞する等、多数の業績に貢献、個人では幹部候補にも抜擢される。その後、独立してコンサルティング会社を立ち上げ、経営や業務の見直し、ブランディングのしくみ構築など、さまざまな問題解決により、多くの中小企業を再生に導いている。

その他、1年で一流の経営コンサルタントを養成する「経営コンサルタント養成塾」の塾長として、金融知識、問題解決の思考法、ヒアリング手法などの基礎から、事業デューデリジェンス、財務分析、経営改善手法、事業計画、マーケティング・ブランディングなど、さまざまな講義をすべて1人で実施。

著書に『再生コンサルティングの質を高める事業デューデリジェンスの実務入門』(中央経済社)等がある。

著者紹介

株式会社つながりバンク 代表取締役 スモールM&Aアドバイザー

大手金融会社に16年在籍し、多くの新規Projectに参画。8年間在籍した経営企画部時代に東京都、銀行、カード会社などに出向。M&A、合弁契約解消、事業撤退・売却、海外子会社統合、債権回収業務など前向きから後ろ向き案件の対応をこなす。2012年、金融による中小企業支援に限界を感じ起業独立。

M&Aアドバイザーの育成に注力する傍ら、自らも小規模の事業投資を実践。2015年頃から行っているスモールM&A関連セミナーの開催は200回を超える。日刊紙、経済メディア等への寄稿も多数。

中小機構:事業引継ぎ支援センター/専門登録機関、日本外部承継診断協会/顧問、経営革新等支援機関(中小企業庁)、日本経営士協会/経営士。投資家・アドバイザー向けの事業投資オンラインメディア「Z-EN」運営。

著者紹介

連載スモールM&Aを成功させる「ビジネスデューデリジェンス」実務入門

※本連載は寺嶋直史氏、齋藤由紀夫氏の共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門

寺嶋 直史
齋藤 由紀夫

中央経済社

なぜ、今までのM&Aは失敗ばかりするのか? 問題点と強みを抽出する分析手法とヒアリング手法を実践的に解説し、業種別論点や失敗例にも言及。 スモールM&Aのビジネスデューデリジェンスのノウハウを一気に習得できる一冊…

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