なぜ、M&Aに失敗したと感じる企業が絶えないのでしょうか? 筆者らが分析したところ、失敗の多くがビジネスデューデリジェンス(以下、ビジネスDD)に起因していることがわかりました。実は、そもそもビジネスDDを実施していない会社も珍しくありません。ビジネスDDを行わずに企業を買収することは、事業の中身(事業内容の現状、問題点、強みなど)を知らないまま購入するということ。未実施のまま買収すれば、効率的な運営ができず、効果が上がらないのも頷けます。ここでは事業の中身を知るために欠かせない手順の1つ、「経営分析」について見ていきましょう。
粉飾決算の見分け方
●原価率低下+棚卸資産増加⇒架空在庫
原価率が低下し、かつ棚卸資産が増加していたら、棚卸資産を水増しして原価率を下げ、利益を水増ししている可能性があります。売上原価は、期首在庫に当期仕入額を足して期末在庫を差し引いて計算します。したがって、棚卸資産(期末在庫)を架空計上すれば、期末の商品在庫が増加して売上原価が減少し、利益が水増しされるわけです。架空在庫は、期末の在庫を調整するだけでできるので、比較的実施されやすい粉飾決算です。
●原価率低下+売上債権増加⇒架空売上
上記と同様に原価率が下がっており、かつ売上債権が増加していたら、架空売上によって売上高を水増しして利益を水増ししている可能性があります。具体的には、取引先の架空注文書や自社の架空請求書(納品書)を作成し、仕訳処理「(売掛金)XX/(売上)XX」を行うのですが、架空売上分の原価は仕訳されず、原価の額自体に変化がないため、原価率は低下し、利益が水増しされるわけです。そして架空売上の売掛金は回収されないため、売上債権や売上債権回転日数は増加していきます。
●使途不明金
その他、注意が必要なのは、「使途不明金」と呼ばれる科目です。具体的には「仮払金」「立替金」「貸付金」があります。仮払金や立替金は、例えば旅費を社員に手渡した等で一時的に計上する科目であり、別途経費計上する必要がありますが、そのまま放置してしまうケースです。また、貸金は、役員報酬を下げる代わりに計上するなど、社長個人の借金返済や、個人的な交際費などで使用されるケースがあります。
なお、これら粉飾決算を見抜くには、3~5年の時系列で比較して、上記の数値が極端に増えていると「お化粧(粉飾)」の可能性があります。
寺嶋 直史
株式会社レヴィング・パートナー 代表取締役
事業再生コンサルタント、中小企業診断士
齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表取締役
スモールM&Aアドバイザー
株式会社レヴィング・パートナー 代表取締役
事業再生コンサルタント
中小企業診断士
大手総合電機メーカーに15年在籍し、部門で社長賞を受賞する等、多数の業績に貢献、個人では幹部候補にも抜擢される。その後、独立してコンサルティング会社を立ち上げ、経営や業務の見直し、ブランディングのしくみ構築など、さまざまな問題解決により、多くの中小企業を再生に導いている。
その他、1年で一流の経営コンサルタントを養成する「経営コンサルタント養成塾」の塾長として、金融知識、問題解決の思考法、ヒアリング手法などの基礎から、事業デューデリジェンス、財務分析、経営改善手法、事業計画、マーケティング・ブランディングなど、さまざまな講義をすべて1人で実施。
著書に『再生コンサルティングの質を高める事業デューデリジェンスの実務入門』(中央経済社)等がある。
著者プロフィール詳細
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連載スモールM&Aを成功させる「ビジネスデューデリジェンス」実務入門
株式会社つながりバンク 代表取締役
スモールM&Aアドバイザー
大手金融会社に16年在籍し、多くの新規Projectに参画。8年間在籍した経営企画部時代に東京都、銀行、カード会社などに出向。M&A、合弁契約解消、事業撤退・売却、海外子会社統合、債権回収業務など前向きから後ろ向き案件の対応をこなす。2012年、金融による中小企業支援に限界を感じ起業独立。
M&Aアドバイザーの育成に注力する傍ら、自らも小規模の事業投資を実践。2015年頃から行っているスモールM&A関連セミナーの開催は200回を超える。日刊紙、経済メディア等への寄稿も多数。
中小機構:事業引継ぎ支援センター/専門登録機関、日本外部承継診断協会/顧問、経営革新等支援機関(中小企業庁)、日本経営士協会/経営士。投資家・アドバイザー向けの事業投資オンラインメディア「Z-EN」運営。
著者登壇セミナー:https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=103
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